2020 年 5 巻 1 号 p. 19-27
硬膜動静脈瘻のシャントは頭蓋内や脊髄の硬膜に均等に発生するのではなく,ある特定の部位に好発する.嗅窩部,下矢状静脈洞,大脳鎌,小脳テント,脊髄硬膜は発生学的に神経堤由来であり, この群の硬膜は固有硬膜からのみ構成されており,シャント血流は橋静脈を介して軟膜や皮質へ逆流するので脳浮腫や脊髄浮腫も惹起されやすく,頭蓋内出血のリスクも高い.この群では中高年以降の男性患者が有意に多いことが知られている.一方,海綿静脈洞,舌下神経管,横静脈洞,S 状静脈洞は中胚葉由来の硬膜から構成され,硬膜は固有硬膜と骨膜硬膜の 2 層構造で構成され,主幹静脈洞近傍に発生するので,シャント血流は静脈洞内の血栓化などがなければ通常皮質静脈逆流は認めず,あっても軽微である.この群は女性に多い傾向がある.神経堤由来の固有硬膜に発生する硬膜動静脈瘻は神経学的な予後が不良であり,何らかの治療介入をしなければ出血の危険もあることが示された.神経堤由来の硬膜と中胚葉由来の硬膜の 2 つに分類し,疾患を解析し,治療することは,この疾患の理解とより良い治療成績に寄与するものと考えられる.