抄録
わが国でも、発症3時間以内の脳梗塞患者を対象とするtissue plasminogen activator(t-PA)による経静脈的血栓溶解療法(以下t-PA静注療法と略す)の安全性・有効性が証明され、平成17年10月11日保険診療が承認された。脳梗塞超急性期の治療は、「治せない時代」から「治せる時代」大きく変貌した。t-PA静注療法は、発症3時間以内にt-PAを投与しないといけない。より多くの患者にt-PA静注療法を行なうには、まず、発症後3時間以内、できれば2時間以内に-PA静注療法が可能な病院へ来院ことが大切である。ゆえに、プレホスピタルケアからt-PA静注療法が始まると言っても過言でない。来院までの時間を短縮するには、市民が脳卒中の症状を知り、発症時にすみやかに脳卒中と認識し、救急隊に連絡することが大切である。そのためには、市民公開講座、テレビや新聞などのマスコミを使った報道も大切である。病院の脳卒中救急患者の受け入れ体制として、脳卒中ホットラインを用いている。24時間、医師が脳卒中ホットラインを携帯し、すみやかな患者受け入れ体制を構築している。t-PA静注療法を成功させるためには、救急隊員の現場での判断が重要となる。患者が脳卒中と判断される場合は、すみやかにt-PA静注療法が可能な脳卒中専門病院(脳卒中センター)への搬送すること求められる。我々は、平成17年5月より、倉敷消防局と協議し病院前脳卒中スケールとして倉敷プレホスピタル・ストロークスコア(KPSS)を考案し使用している(表)。救急隊員が、患者を脳卒中であると疑わった時に、救急隊員が現場でKPSSの評価を行い、神経重症度を点数化したことである。13点満点で13点が最重症となる。救急隊から、現場で脳卒中を疑った患者のKPSSが10点であると脳卒中専用ホットラインを介して連絡があると、受け入れる医療スタッフは、患者の重症度が高いということを認識し、万全の受け入れ態勢で対応する。もし、NIHSSスコア5-22の患者をt-PA適応患者と仮定するとKPSSスコア3-9であれば、感度84%、特異度93%で、NIHSSスコア5-22の患者をスクリングできる(図1)。搬送手段としては、もちろん救急車を用いる。救急車での搬送が、言うまでもなく来院までの時間を短縮可能である。また、当院ではドクターヘリも使用している。ドクターヘリは岡山県内であればどこでも約25分以内に到着可能である。当院のドクターヘリは、年間約450回出動し、そのうち脳疾患は約10%である。t-PAの使用承認後、ドクターヘリにて搬送された患者11例にt-PA治療を行うことができた。ドクターヘリは、特に、山間部や離島での搬送には威力を発揮する。病院の救急体制の構築も重要である。特に、放射線部、検査部の協力はなくてはならない。以上、市民への啓発、病院の受け入れ体制、救急隊の搬送システムのプレホスピタルケアとホスピタルケアがうまく連携され、初めてt-PA治療が成功する。
