1975 年 49 巻 3 号 p. 157-162
すでに前報で,粗膵リパーゼ標品中のエステラーゼ活性が,フィトールの促進作用を受けることが判明したので,本報ではこの対象となる酵素の性格について明らかにしようとした.
(1) フィトールは,酵素標品中の胆汁酸塩を要求するコレステロールエステラーゼ活性,サリシルバレレートを特異的に分解する“プロエステラーゼ”活性(活性化型),およびプロテオエステラーゼ活性のいずれに対しても全く促進作用を示さなかった.
(2) このフィトール促進性酵素は,不溶性モノグリセリドの“ミセル溶液”を分解する酵素ではなく,“真の溶液”状態の短鎖脂肪にのみ作用し,しかもその際,胆汁酸塩よりはフィトールのようなテルペンをactivatorとして要求するきわめて特殊のカルボキシルエステラーゼであると推定した.
(3) しかし,この酵素は,肝エステラーゼのような脂肪族以外に芳香族エステルをも分解するいわゆる典型的カルボキシルエステラーゼではないものと推定した.
(4) このフィトールによる活性化は,界面活性剤である胆汁酸塩,レシチン, Triton X-100, SDS,および尿素の添加により,顕著に阻害された.これに対し,リパーゼ活性は比較的抵抗性を示した.