看護薬理学カンファレンス
Online ISSN : 2435-8460
2018福岡
セッションID: 2018.2_S1-3
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シンポジウム1
診療看護師(NursePractitioner:NP)の臨床に薬理学を活用する
塩月 成則
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抄録

私は、診療看護師(NP、以下 NPとする)の立場からお話させて頂きます。大分県立 看護科学大学大学院博士前期課程 NP コースを2010 年に修了した。在学中にニューヨー ク大学などでの研修や、厚生労働省の業務試行事業などに参加し、NP 実践の検証に協 力してきた。NP 教育の根幹に「必要とされる診療行為を、医師や他の医療従事者と連携・ 協同し、効果的、効率的、タイムリーに実践できる能力を備えた看護師」を養成するため に、大学院において「個々の患者の医療ニーズを包括的に正確に判断し、倫理的かつ科 学的な根拠に基づき、必要とされる診療行為を的確に実施することができ、患者および患 者家族の QOL の向上に寄与できる人材を育成する」がある。 臨床薬理学の習得は、そ の competency の一つを形成するためのもので、NP の臨床実例を通じて紹介する。70 代、 男性、胃癌にて胃全摘後、施設に入所中で、微熱と食欲低下が続いていた。往診医の判 断は、高齢男性の胃癌術後に伴う食欲低下、老衰で、経過観察指示であったが、家族 が何とかしたいという思いで当院受診。NPとして、頭から足先までの身体診察を行い、寡 黙な性格な方であったが、家族の目には、いつもとわずかに異なる意識レベルであること、 qSOFA2 点から、肺炎に伴う敗血症の可能性を考え、検査、レントゲンを行い、繰り返した 誤嚥で器質化した肺炎と判断し、治療開始した。また、「気管支鏡=侵襲的=癌の術後の 老衰で適応外」という固定概念を捨てて、患者家族と相談し、苦痛を与えず呼吸循環に影 響を及ぼさないぎりぎりの鎮痛鎮静下に、気管支鏡使用し誤嚥物を回収した。同時に嚥下 リハビリ、NSTと相談し、食事形態、分割食を検討し直し、現在、元気に施設に戻ってい る。いつもとどこか違うという家族の観察を重要視し、詳細な身体診察から、検査につなげ、 前医の「高齢者の癌の術後=老衰の進展」という固定概念を捨て、患者家族の基本的対 応から、治療に結びついた。他の事例では、60 代、女性、脊髄損傷にて、上肢の耐え難 い疼痛があり、プレガバリン、NSAIDs 処方がとなっていた。家族と上肢の他動運動にて 筋緊張を和らげたが、効果は限定的であった。それ以上の介入は、リハビリや周囲の支え とのことで、景色が見られるような場所での気分転換を図った。NPとして、更なる手はない ものか検討したところ、薬理学的にNMDA 受容体阻害作用のある薬剤の使用に可能性が あることを、海外文献で検索し、咳止めであるデキストロメトルファンの NMDA 受容体阻害 作用に期待し、倫理的な面について医師、患者家族で相談し、使用を試み疼痛がかなり 軽減した。昨今、ガイドラインにないことは、家族の申し出に対しても、思考停止し、拒否し てしまう医療の風潮がある。それは、責任の問題や、無害の法則からは正しいが、ガイドラ インを偏重しすぎ、考えることを止めてしまうことは、ともすると、医療の人間性を失ってしまう のではないか?と感じることがある。このような例は、枚挙に暇が無いが、小さな積み重ねで、 医療に貢献したく実践を続けたい。

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© 2018 本論文著者
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