主催: 看護薬理学カンファレンス
会議名: 看護薬理学カンファレンス 2021 in 奈良
回次: 2
開催地: 奈良
開催日: 2021/11/13
この発表では医療・看護と行動分析学との関わりについて概説する。治療の開始や継続にとって患者の協力的な行動はほとんど必要不可欠である。また、場合によっては患者が適切な行動を習得すること自体が治療の一部である。そのため、医療者が患者と協力して治療を進めるためには、行動がどのように習得、維持、変容されるかについての理解が欠かせない。その理解を支えるのが心理学であるが、行動を生 み出すのは患者の感情や意志であると考えるような通俗的な解釈は、むしろ行動についての真の理解を妨げてしまう。他方、心理学の中でも行動分析学は、そのような落とし穴を避け、行動の原因を科学的に分析した上で行動支援を編み出す枠組みを 提供してきた。
行動分析学では、環境との相互作用によって行動が習得、維持、変容されると考える。 行動は大別するとレスポンデント行動とオペラント行動の2種類に分けられるが、 患者との協力を考える上で特に重要なのは後者である。オペラント行動とは、行動の直後に何らかの結果が生じると、その結果の種類によっては同様の行動が将来起こりやすくなったり起こりにくくなったりするという法則に従う行動である。多くの行動の原 因を分析するためには、まずこの行動と結果との関係、すなわち行動 -結果随伴性に ついての理解が欠かせない。それに加えて、オペラント行動のきっかけを与える弁別 刺激、行動 -結果随伴性の効果を調整する確立操作、随伴性についての言語的な記 述に影響を受けるルール支配行動などの概念的な道具立ても重要であるが、それらについても発表で解説する。
看護師が行動分析学の考え方や技法を身につければ、患者の行動を理解して支援 する際の強力な支えとなる。例えば、患者が数多の行動 -強化随伴性を経験した上 で治療場面に現れていることを踏まえれば、それが患者の個別性を形成してきたことを理解した上でアセスメントに臨む視点が得られるだろう。また、患者の健康にとって重要な行動を特定し、それを支援する上でどのように環境を調整すべきかを考え出せるようになるだろう。さらに、看護師からの働きかけも患者の環境の一部であることに気づき、それが患者の行動にとってどのように機能しているかを考える視点をもてば、看護過程そのものについての理解も深まるだろう。これらを可能にするために、行動 分析学を体系的に学べるように看護師教育に組み込むべきである。