主催: 看護薬理学カンファレンス
会議名: 看護薬理学カンファレンス 2023 in 東京
回次: 1
開催地: 東京
開催日: 2023/06/18
妊産婦には睡眠問題を抱える者が多いことは、周知の事実である。妊娠初期~後期のいずれかの次期に睡眠障害を有する妊婦は 59% にのぼり、妊娠後 期には 80%以上の者が何らかの睡眠障害を有していることが報告されている(Moghadam et al., 2021)。睡眠障害の中で最も多いのが不眠障害であり、入眠 困難や睡眠維持困難、およびそれによる日中の眠気が特徴的である。このような 背景から、「妊娠中は眠りにくくなる」ことが一般常識となり、夜間に眠れなくても、 日中眠れるときに眠るように指導される。
しかし、不眠障害の有病率は産前だけではなく産後でも高く、抑うつ・不安状 態を高めるリスク要因となることが縦断調査によって明らかにされている(Quin et al., 2022)。加えて、妊娠中に睡眠障害があると、出産後 6ヶ月間に産後うつ病を 発症するリスクを5.3 倍高めることも明らかにされている(Chung et al., 2018)。こ のことからも妊産婦の睡眠問題については、積極的な改善アプローチを提供す る必要がある。
不眠障害に対しては、認知行動療法(CBT-I)が極めて有効であり、欧米では 不眠障害治療の第一選択肢に位置づけられている。CBT-Iの中核技法は睡眠ス ケジュール法(刺激制御療法と睡眠制限療法の組み合わせ)であり、その内容は 臥床時間の短縮である。通常は、4~6 回のセッション(1回 50 分程度)を行うこと で 7 割程度の不眠患者に効果が認められ、その効果は持続することが明らかと なっている(Morin et al., 1999)。近年では、digital CBT-Iも多く利用され、対 面 CBT-Iに遜色ない効果を示している。
妊産婦の不眠症状に対してCBT-Iを実施した研究では、妊産婦の不眠症状の 改善には有効であり、産後うつ病にも一定の改善効果を示すことが報告されてい る(例えば、Manber et al., 2019)。本シンポジウムでは、CBT-Iについて紹介す るとともに、妊産婦の不眠症状に対するCBT-Iの有効性と今後の課題について 紹介する。