周術期の患者に睡眠障害が起こることは数多く研究され、報告されている。周術期の睡眠障害には複数のリスクファクターが存在する。そのリスクファクターの 一つである全身麻酔薬に対し、ヒトの睡眠に深く関係する概日リズムへの影響につ いて研究を行った。
ヒトの概日リズムは、生体の生理機能に対する周期性を示す。その周期は 24.1~25.1 時間であるが、外界の 24 時間の明暗周期に合わせる「同調」という機能がある。 ヒトは、概日リズムが同調されることで、健康的で規則的な日常生活を送ることが できる。
概日リズムは、時計遺伝子とメラトニン受容体の作用により同調されている。特 に周術期にある入院患者は、概日リズムの「同調」が障害されやすく概日リズムが 乱れることで、夜に眠り、昼に覚醒するという正常な睡眠 / 覚醒サイクルを保つこ とができないといわれている。また、全身麻酔薬により睡眠 / 覚醒サイクルが乱れ ることが、動物実験やヒトを対象とした研究で報告されている。今回、全身麻酔薬の中でも臨床現場で汎用されているセボフルランに着目し、ヒ トと同様にメラトニンが分泌されるマウスによって睡眠 / 覚醒サイクルへの影響を 明らかにした。
マウスに 3日間セボフルランで麻酔をすると、麻酔前の推移と比較しマウスの活 動開始時刻が早まり、セボフルランがマウスの睡眠 / 覚醒サイクルに影響を及ぼす ことが明らかとなった。
新たな知見であるこの結果から、セボフルランによる全身麻酔後の患者は、術 前と比較して入眠時刻が早まり、早朝に覚醒しやすい傾向にあると考えられる。眠 れることが当たり前であった生活から、全身麻酔により「眠るべき時間に眠れない」 生活になることは、患者にとっては大きな苦痛である。いつもと違う生理現象を体 感し、違和感や不安を覚える患者に、原因や対処方法を説明できることで、患者の 苦痛に寄り添った看護となる。「眠れていない」という現象を捉えるだけでなく、「な ぜ眠れなかったのか」という疑問に取り組み、看護師が生理学や薬理学の知識を 得て、メカニズムや作用機序を理解し行う根拠に基づいたケアは、安全性の担保 や患者と看護師の信頼関係を構築することにつながる。
現在、周麻酔期看護師として麻酔科医と協働することで、薬剤の理解や薬剤投 与前後の患者の観察、アセスメントの重要性を再認識したため、改めて薬剤投与 の最終実施者となる看護師に期待される役割を考えていきたい。
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