主催: 看護薬理学カンファレンス
会議名: 看護薬理学カンファレンス 2024 in 東京
回次: 1
開催地: 東京
開催日: 2024/06/30
モルヒネ等のオピオイド物質は強力な鎮痛薬としても広く利用されているが、その作用及び副作用の発現には個人差が大きいことが広く知られており、環境要因 以外に、遺伝要因の寄与が示唆されている。
遺伝子の相違(遺伝子変異)はヒトゲノム DNA(デオキシリボ核酸)の塩基配 列上の様々な領域に散在しており、異なっている遺伝子配列のそれぞれを対立遺 伝子と称する。通常、対立遺伝子頻度が特定の集団内で1% 以上の頻度で見ら れるとき、これを遺伝子多型と呼ぶが、このような遺伝子多型が、体質的な個人 差や人種差等の基本的な要因になっていると考えられる。これまでの演者らの候補遺伝子解析において、ミューオピオイド受容体遺伝子 OPRM1 の rs9384179 多型、GIRK チャネル 遺 伝 子 GIRK2(KCNJ6 )の rs2835859 多型、電位依存性カルシウムチャネル Cav2.3 遺伝子 CACNA1E の rs3845446 多型、アドレナリンβ2 受容体遺伝子ADRB2 の rs11959113 多型、等 の遺伝子多型とオピオイド鎮痛薬感受性との関連が示された(Fukuda K et al., Pain, 2009;Nishizawa D et al., J Pharmacol Sci, 2014;Ide S and Nishizawa D et al., PLoS One, 2013)。
また、演者らは、ヒトゲノム全体の網羅的な遺伝子多型解析であるゲノムワイ ド関連解析(GWAS)を下顎形成術後のオピオイド鎮痛薬必要量に対して行い、METTL21A(FAM119A )及びCREB1 の遺伝子近傍領域に最有力候補多型 rs2952768を同定した(Nishizawa D et al., Mol Psychiatry, 2014)。さらに、近 年の GWAS において、がん性疼痛治療におけるオピオイド鎮痛、慢性疼痛、及 びオピオイドの主な副作用である術後の嘔気・嘔吐、等に関わる遺伝子多型も同 定している(Nishizawa D et al., Cancers, 2022;Nishizawa D et al., Mol Pain,2021;Nishizawa D et al., Cancers, 2023)。 このような基礎研究のエビデンスを臨床の現場に生かし、遺伝子多型判定を事前に行うことにより患者各個人の鎮痛薬感受性を予測し、その情報に基づい た投薬を行うなど、個別化疼痛治療への応用の道も拓かれるものと期待される。 実際、演者らは上記 5 多型を用いたオピオイド鎮痛薬感受性の予測に基づく個別 化疼痛治療を既に実践している(Yoshida K and Nishizawa D et al., PLoS One,2015)。