主催: 看護薬理学カンファレンス
会議名: 看護薬理学カンファレンス 2024 in 石川
回次: 2
開催地: 石川
開催日: 2023/11/02
うつ病は精神疾患の中で最も患者数が多い疾患であり、生涯有病率は 19%との報告もある。女性の罹患率は、男性の 4 倍ともいわれている。ストレスには、 心理的なものだけでなく身体的なものも含まれている。
私は、覚醒剤誘発による精神病モデルマウスの脳で発現が増大する遺伝子 として Shati/Nat8lを見出し、長年、研究を行っている。これまで 50 年間に渡り、 国際的にもセロトニン選択的再取り込み阻害薬(SSRI)がうつ病の第一選択薬 として使用されてきた。本セミナーでは、Shati/Nat8lのストレス感受性への影 響を検討し、ストレス脆弱性の形成メカニズムを明らかにした私達の最近の研究 を紹介したい。
社会 的敗 北 ストレスを暴露し、最 終 暴露から24 時間経 過後に社会 性 行 動能力試 験を行い、社会 性行動能力試 験の結果からストレス抵抗性マウス(Resilient)とストレス感 受 性マウス(Susceptible)に分 類した。社会的敗 北 ストレス暴露後の社会 性行動能力と背側線条体での Shati/Nat8l mRNA は、 Interaction zone 滞在時間との間に相関が観察された。海馬や前頭前皮質での Shati/Nat8l mRNAとInteraction zone 滞在時間との間に相関は観察されな かったことから、背側線条体に焦点をあてて、研究を進めた。
各種アデノ随伴ウイルスベクターや Shati/Nat8l コンディショナルマウスを用 いて、背側線条体での Shati/Nat8 の発現量を増減させたマウスを用いて、スト レス脆弱性形成について検討を行った。Shati/Nat8 発現量増強および発現量 減少をさせたマウスでは、社会的敗北ストレス負荷後のショ糖嗜好性試験にお いて、それぞれ、ショ糖の嗜好性が有意に減少および増加した。背側線条体 Shati/Nat8lの発現量増加によって誘導するストレス脆弱性形成に対する背側線 条体でのセロトニンの機能が減少しており、また、セロトニン神経の起始核であ る縫線核を活性化させると、これらのうつ様症状が有意に回復した。その時に GABAの遊離量も変動し、薬理学的拮抗実験によってGABA 受容体を介して いることを明らかにした。
最近の 30 年間に渡って、うつ病治療薬を含め精神疾患治療薬の新規メカニ ズムでの新薬は開発されていない。うつ病発症の根底にあるストレス感受性の 調節メカニズムを明らかにすることは、うつ病に対する治療や予防法を発展させ るための新たな展開をもたらすことが考えられる。