主催: 看護薬理学カンファレンス
会議名: 看護薬理学カンファレンス 2024 in 石川
回次: 2
開催地: 石川
開催日: 2023/11/02
妊婦のむずむず脚症候群(restless legs syndrome: RLS)の有病率は同世代で同じ地域の女性の有病率の 2-3 倍と高率である。我々の日本人妊産婦 266人 を対象とした調査では有病率は 15%であり、合併症の有無に関わらず有病率は ほぼ同じである。半数以上のRLS 症状は軽症であるが、重症者も1割以上認 められる。COVID-19 の感染拡大ととともに RLS の有病率は増加する傾向が 認められ、最近の妊婦の調査でも倍増している。見過ごすことができない睡眠・ 覚醒障害の一つである。
妊婦のRLS の多くは妊娠中に症状が出現し、出産とともに消失すると報告さ れていた。しかし、妊娠直前からさらにさかのぼって確認すると、半数以上の者 が RLS 症状を自覚していた時期があることが判明している。妊娠前からRLS が 存在する例では出産後も症状が続き、治療のために薬剤が必要となり断乳を要 することもある。安定した妊娠・産褥期を過ごすためには妊娠前からの治療介 入が必要であり、女性のライフステージに合わせた対応が望まれる。
妊婦を含む RLS 患者ではビタミン D 欠乏状態の者が多い。妊婦のビタミン D 欠乏状態は RLS の独立した予測因子であることも報告されている。我々の調 査ではビタミン D 欠乏は妊婦のRLS のリスクを約 3 倍高めていた。また、妊婦 のRLSと関連する血清25(OH)ビタミン D 濃度のカットオフ値は10ng/mLであっ た。妊婦のRLS 症状に対するビタミン D 補充療法の有効性は報告されていな いが、本カットオフ値は補充療法の目安になるものと期待している。
日本で RLS に対する保険適用を取得してる薬剤はドパミン作動薬であるプラ ミペキソールとロチゴチンの 2 剤のみであるが、いずれの薬剤も妊婦への投与は 禁忌である。動物実験で妊娠初期の妊娠継続性に影響を及ぼすことが報告さ れており、妊娠可能性のある女性に対する両薬剤の継続服用には他の治療法へ の切り替えを含めた注意を要する。本症には前述のビタミン D に加えて、鉄や葉 酸の欠乏も影響することが知られており、適切な補充療法が必要である。