看護薬理学カンファレンス
Online ISSN : 2435-8460
2024石川
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
看護薬理学教育セミナー1
  • 藤本 誠
    セッションID: 2024.2_ES-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/04
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    月経に関連したトラブルで漢方の外来を受診される方は多く、特に月経困難症の訴えの症例が多い。 月経困難症とは、月経期間中に月経に随伴して起こる病的症状を言い、子宮筋腫による過多月経や子宮内膜症が原因のこともあるが、器質的な 疾患が無い場合も多い。程度の差はあるが、女性の 8 割は月経困難症を 経験しているとされる。多くの女性は対症療法として鎮痛剤で対応してい るが、漢方治療を継続した場合、痛みが軽減し、鎮痛薬の使用量が減量 できることが多い。

    伝統的な漢方医学的な考えでは、生体の恒常性の維持は気血水の三要 素によってなされているとされるが、月経に関するトラブルの多くは血(け つ:身体をめぐる液体で、目に見えて色が赤いもの)の異常によると捉え られることが多い。

    月経困難症をはじめとする、月経に関連した不調に頻用される漢方薬 のうち、当帰芍薬散・加味逍遥散・桂枝茯苓丸は産婦人科領域の三大処 方とされるが、西洋医学的な診断での月経困難症であっても、これらの 漢方薬は漢方医学的な診察所見を基に使い分けることになっている。近 年はインターネットの普及もあって、月経困難症の方が、これら漢方薬の OTC 医薬品を購入して内服されていることも多く、これら三大処方がど のような漢方医学的な所見を持つ方に適応があるのかについて、看護職 の方には是非とも知っておいていただきたい。

    当日は、陰陽、虚実、気血水理論などの漢方医学的な病態の捉え方と、 産婦人科領域の三大処方の適応病態について具体的な症例の経過ととも に解説する。

看護薬理学教育セミナー2
  • 新田 淳美
    セッションID: 2024.2_ES-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/04
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    うつ病は精神疾患の中で最も患者数が多い疾患であり、生涯有病率は 19%との報告もある。女性の罹患率は、男性の 4 倍ともいわれている。ストレスには、 心理的なものだけでなく身体的なものも含まれている。

    私は、覚醒剤誘発による精神病モデルマウスの脳で発現が増大する遺伝子 として Shati/Nat8lを見出し、長年、研究を行っている。これまで 50 年間に渡り、 国際的にもセロトニン選択的再取り込み阻害薬(SSRI)がうつ病の第一選択薬 として使用されてきた。本セミナーでは、Shati/Nat8lのストレス感受性への影 響を検討し、ストレス脆弱性の形成メカニズムを明らかにした私達の最近の研究 を紹介したい。

    社会 的敗 北 ストレスを暴露し、最 終 暴露から24 時間経 過後に社会 性 行 動能力試 験を行い、社会 性行動能力試 験の結果からストレス抵抗性マウス(Resilient)とストレス感 受 性マウス(Susceptible)に分 類した。社会的敗 北 ストレス暴露後の社会 性行動能力と背側線条体での Shati/Nat8l mRNA は、 Interaction zone 滞在時間との間に相関が観察された。海馬や前頭前皮質での Shati/Nat8l mRNAとInteraction zone 滞在時間との間に相関は観察されな かったことから、背側線条体に焦点をあてて、研究を進めた。

    各種アデノ随伴ウイルスベクターや Shati/Nat8l コンディショナルマウスを用 いて、背側線条体での Shati/Nat8 の発現量を増減させたマウスを用いて、スト レス脆弱性形成について検討を行った。Shati/Nat8 発現量増強および発現量 減少をさせたマウスでは、社会的敗北ストレス負荷後のショ糖嗜好性試験にお いて、それぞれ、ショ糖の嗜好性が有意に減少および増加した。背側線条体 Shati/Nat8lの発現量増加によって誘導するストレス脆弱性形成に対する背側線 条体でのセロトニンの機能が減少しており、また、セロトニン神経の起始核であ る縫線核を活性化させると、これらのうつ様症状が有意に回復した。その時に GABAの遊離量も変動し、薬理学的拮抗実験によってGABA 受容体を介して いることを明らかにした。

    最近の 30 年間に渡って、うつ病治療薬を含め精神疾患治療薬の新規メカニ ズムでの新薬は開発されていない。うつ病発症の根底にあるストレス感受性の 調節メカニズムを明らかにすることは、うつ病に対する治療や予防法を発展させ るための新たな展開をもたらすことが考えられる。

シンポジウム 1
  • 近藤 英明
    セッションID: 2024.2_S1-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/04
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    妊婦のむずむず脚症候群(restless legs syndrome: RLS)の有病率は同世代で同じ地域の女性の有病率の 2-3 倍と高率である。我々の日本人妊産婦 266人 を対象とした調査では有病率は 15%であり、合併症の有無に関わらず有病率は ほぼ同じである。半数以上のRLS 症状は軽症であるが、重症者も1割以上認 められる。COVID-19 の感染拡大ととともに RLS の有病率は増加する傾向が 認められ、最近の妊婦の調査でも倍増している。見過ごすことができない睡眠・ 覚醒障害の一つである。

    妊婦のRLS の多くは妊娠中に症状が出現し、出産とともに消失すると報告さ れていた。しかし、妊娠直前からさらにさかのぼって確認すると、半数以上の者 が RLS 症状を自覚していた時期があることが判明している。妊娠前からRLS が 存在する例では出産後も症状が続き、治療のために薬剤が必要となり断乳を要 することもある。安定した妊娠・産褥期を過ごすためには妊娠前からの治療介 入が必要であり、女性のライフステージに合わせた対応が望まれる。

    妊婦を含む RLS 患者ではビタミン D 欠乏状態の者が多い。妊婦のビタミン D 欠乏状態は RLS の独立した予測因子であることも報告されている。我々の調 査ではビタミン D 欠乏は妊婦のRLS のリスクを約 3 倍高めていた。また、妊婦 のRLSと関連する血清25(OH)ビタミン D 濃度のカットオフ値は10ng/mLであっ た。妊婦のRLS 症状に対するビタミン D 補充療法の有効性は報告されていな いが、本カットオフ値は補充療法の目安になるものと期待している。

    日本で RLS に対する保険適用を取得してる薬剤はドパミン作動薬であるプラ ミペキソールとロチゴチンの 2 剤のみであるが、いずれの薬剤も妊婦への投与は 禁忌である。動物実験で妊娠初期の妊娠継続性に影響を及ぼすことが報告さ れており、妊娠可能性のある女性に対する両薬剤の継続服用には他の治療法へ の切り替えを含めた注意を要する。本症には前述のビタミン D に加えて、鉄や葉 酸の欠乏も影響することが知られており、適切な補充療法が必要である。

  • 周尾 卓也
    セッションID: 2024.2_S1-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/04
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    体内のビタミン D は多くが皮膚で生合成されるともに、一部が食餌から摂取される。これらビタミン D は肝臓と腎臓で順を追って2回の水酸化反応を受けるこ とで様々な生理活性を発揮するが、ビタミン D 充足の指標となる貯蔵量は肝臓 で水酸化した 25 - ヒドロキシビタミン D の血中濃度で評価されている。

    最近になって、ビタミン D 欠乏とむずむず脚症候群との関連が注目されるよう になってきた。むずむず脚症候群の症状が頻発し、増悪する妊娠後期の血中濃 度を検証した私たちの先行研究においても、臨床で採用されている血液化学検 査の CLEIA 法では定量限界値の 4ng/mLを下回るほどに 25 - ヒドロキシビタミ ン D 低値の患者を複数認めていた。

    妊婦むずむず脚症候群における発症のカットオフ値を明確にする目的で、質 量分析技術の一つであるLC-multiple-reaction-monitoring-MS 法の高感度測 定を導入したことで、妊婦 205 名を対象とした定量結果から、これまでに10ng/ mLという25 - ヒドロキシビタミン D の閾値が得られており、現在も調査を継続し ている。

    他方、新しい質量分析技術であるLC-high-resolution-MS 法の高分 解能測 定を活用して、25 - ヒドロキシビタミン D のように予めに標的分子を絞ることなく、 体内の生化学反応で生じる有機化合物−代謝物−を幅広く同定する取り組みも 進めている。

    代謝物は、生命活動の表現型、あるいは表現型が現れる直前の変動に直結 していることから、妊娠、分娩、産後に急激に変化する母体の血液中には、物理 化学的性質の異なる多様な代謝物が盛り込まれているはずで、これら代謝物の 特徴によって、母子の健康状態を描出できる可能性があると考えている。

    この先には、妊婦と非妊婦や健常と病態とを比較する方策で、血中代謝物の 全体像から周産期母子の健康を見守るバイオマーカー探索に有用な解析プラッ トフォームの構築とその提供を目指している。

シンポジウム 2
  • 髙道 香織
    セッションID: 2024.2_S2-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/04
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    認知症に伴う行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;以下 BPSD)は、例えば認知症の人が入院した後、点滴を抜いてし まう、落ち着かず興奮状態となり「家に帰る」と叫ぶなど、ケア提供者側には突 如とした、不可解な事象として映る。行動を制止したり「今日は帰られない」等、 説得する場合もあるが、それはケア提供者中心の対応であり状況は改善しない。 関係性も悪化し悪循環に陥る。

    認知症ケアは、認知症の人の立場に立ち、現在のコミュニケーションのあり様 や過ごしている環境を俯瞰し、改善点に気づいて実践できることから開始してい く。BPSD は認知症の人の苦痛の現れとも言え、コミュニケーションでは、ケア 提供者の聴く姿勢や表情、場面の始まり・終え方等を考えていく。そうしても認 知症の人は、自らの苦痛を明確に言葉で表すことは難しい。そのため言葉だけ に頼らず、認知症の人の行動と心理から、何を発信しているのかメッセージを汲 み捉え、苦痛緩和に焦点をあて考えてみる。メッセージを受け止めケアを行う過 程で、認知症の人それぞれの人生史・生活歴、価値観、選好が、行動や心理と関 連していることがある。大事なことは、認知症の病(やまい)の部分に限らず、そ の人の全体像への関心を持つことと言える。その人中心の道理に矛盾しない関 わりが、BPSDを和らげる要点であり、家族との対話や多職種連携によりそれ を見出せることもよくある。環境面では人的環境の観点から、認知症ケアに関心 を持つメンバーがその場にいるかどうか再考する。認知症の人の周囲に多数の 人がいても、認知症ケアに対する理解・関心が低い環境では、人的環境の改善 が必要となる。全人的苦痛の緩和を図るにはホスピスのように、理念のある環境 の整えが重要である。

    認知症の病の軌跡を概観すると、BPSD の顕著な時期は一過性で徐々に弱ま り、より進行したステージへと移る。認知症の不可逆的な進行を、非薬物的なケ アによって止めることはできないものの、今日という日をその人らしく安寧に過ご せるよう支援し、人生が完成する最期までそうしたスタンスで、その人を尊重し た関わりは持ち続けられる。その積み重ねは地道であるが経験知が増え、指針 が得られる。少しずつ認知症の人を支えていく医療・ケアの風土や文化が育まれ ていくよう務めていきたいと思う。

  • 小野 賢二郎
    セッションID: 2024.2_S2-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/04
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    認知症の基礎疾患として約 7 割を占め最も多いアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)で使用できる治療薬には今まで、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネ ペジル、ガランタミン、リバスチグミン)とグルタミン酸受容体拮抗薬(メマンチン) があったが、これらの薬剤は症状改善薬でありAD の病理変化自体は食い止め られず、症状はいずれ進行する。そこで根本的治療、すなわち、病理変化自体を 食い止める疾患修飾療法の開発が急務であった。

    AD の病理学的特徴としては、アミロイドβ蛋白(Aβ)から成る老人斑、タウ 蛋白(tau)から成る神経原線 維変化、さらに神経細胞死・脱落があげられる。 なかでも病態においては、Aβが tauに先行して異常凝集して神経細胞を傷害す る過程が重要な役割を果たすと考えられている(アミロイド仮説)。

    こういった背景の下、抗 Aβ抗体を中心に AD の病態ステージに応じた様々 な疾患修飾療法が開発されてきた。残念ながら多くは失敗に終わったが、いく つかの有望な薬剤も残っている。2021年 6月、アメリカ食品医薬品局(FDA)は 世界初のAD 根本治療薬としてアデュカヌマブを条件付きで承認した。同年末 に日本国内での承認は見送られたが、2023 年 7月に抗プロトフィブリル抗体で あるレカネマブが FDAで正式承認され、本邦でも同年 9月25日に承認され、12 月20日にはついに臨床現場での使用が可能となった。また、アデュカヌマブ、レ カネマブ以外に第 3 相臨床試験にて有効性が示されたものにドナネマブがある。 ドナネマブは Aβプラークのピログルタミル化修飾 Aβ N 末端に対する抗体で、 同剤は 2024 年 7月2日に FDAで承認され、本邦でも審議結果が注目されている.

    アミロイド関連画像異常(amyloid-related imaging abnormalities:ARIA)や インフュージョンリアクションなど解決すべき課題も少なくないが、抗 Aβ抗体を 中心に AD に対する疾患修飾療法の開発は着実に進んでいる。

  • 増尾 明
    セッションID: 2024.2_S2-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/04
    会議録・要旨集 オープンアクセス
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