抄録
ドライ・コセットを原料とする製糖方式は,生ビート処理の製糖方式にくらべ,原料ビートの貯蔵性が増すことにより,製糖稼動期の延長が可能であるとされているが,わが国の暖地ビートの処理方式に適用する場合は,その収穫期の関係で,ドライ・コセットの貯蔵期間が4月~8月の気温上昇多湿季になる。したがってこのような条件下で,はたしてドライ・コセットの品質が変化しないかどうか,また界面活性剤―D.B.S.-IおよびD.B.S.-II―の添加が貯蔵性にどのような効果があるか,さらにまた,天日乾燥と火力乾燥の場合,貯蔵性に差があるかどうかについても検討した。その結果を要約するとつぎのとおりであった。
(1) 試験当初のコセット糖度は67~70度であったが,5月頃まではほとんど変化なく,9月には当初の糖度の30~70%といちじるしく減少した。天日乾燥試料の方が火力乾燥試料より糖度滅少が大であり,無処理およびD.B.S.-1添加の試料は糖度減少がいちじるしく,D.B.S.-II添加試料は比較的糖度減少の少ない傾向があった。
(2) 還元糖量の変化は糖度減少とほぼ対照的に増大した。糖度減少の少ないD.B.S.-II添加試料は,還元糖量の増大も比較的少なかった。
(3) ドライ・コセット磨砕汁中の全窒素量は,貯蔵初期はほとんど変化なかったが,試験終了時の9月にはかなり増大していた。
(4) ドライ・コセットの酵母およびカビ数は,試験当初1,000/g程度であって,貯蔵中もほとんど増減しなかった。
総細菌数は試験当初から2万~40万/gくらいあり,耐熱性細菌は1,000~2,000/g程度であったが,いずれも貯蔵中6月頃から増大し,9月には総細菌数は2,000万~7,000万/g,耐熱性細菌数は3~4万/gと増大した。総細菌数に対しては,天日乾燥および火力乾燥,ならびに界面活性剤の影響は明らかでなかったが,耐熱性細菌数に対しては界面活性剤添加は,ある程度抑制効果があったとみとめられた。天日乾燥および火力乾燥の差はほとんどみとめられなかった。
(5) このように貯蔵中に成分変化したドライ・コセットは,製糖原料として単に糖分損失ばかりでなく,その抽出糖汁の純糖率は低くく,着色度も増し,ドライ.コセットの特色がいちじるしく減殺されたものと推察した。
終りにドライ・コセットの生菌数を測定していただいた,当食糧研究所の中野政弘発酵食品部長,同太田輝夫技官に厚く御礼申し上げます。