日本食品工業学会誌
Print ISSN : 0029-0394
パン生地発酵中の糖の消長に及ぼす各種米粉添加の影響
高野 博幸小柳 妙田中 康夫
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1980 年 27 巻 10 号 p. 522-528

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抄録

米粉へのα化の有無がライスブレッド製造時の発酵および発酵中の糖の消長に及ぼす影響について検討を行ない,以下の結果を得た。
1. 米粉20%置換添加した時の無糖生地の発酵において,生米粉を用いると初期発酵が増大し, α化処理米粉を用いると後期発酵つまりマルトース発酵が増大する。
2. 米粉単独で発酵中における炭酸ガス発生量を測定したところ, α化処理米粉では1.5時間以内に炭酸ガス発生は停止したが,生米粉では長時間炭酸ガス発生が持続された。
3. 生米粉を135℃4時間加熱して小麦粉に加えた時には,初期発酵の増大は認められなかった。このことから生米粉を添加した際に認められる初期発酵の増大は,米粉中に存在する酵素によって発酵性糖が生成されたためと考えられる。
4. 加水前および加水後に30℃1時間インキュベーションした時の小麦粉と米粉の糖組成の変化を調べた結果, α化処理米粉には糖組成に変化が認められなかった。生米粉ではインキュベーションによってマルトースが著しく増大し,またグルコースとフラクトースも増加したが,シュクロースは減少した。小麦粉の場合,インキュベーションによってマルトースの顕著な増大が認められた。
5. 小麦粉に対して米粉を20%置換添加し,同様にして糖の消長を調べた結果, 30℃1時間のインキュベーションによって生米粉添加ではマルトースとグルコースが著しく増加した。一方α化処理米粉添加では,マルトースのみの増大が顕著であった。
6. 米粉を20%置換添加した無糖生地の発酵中における全糖量の消長は,生米粉添加では小麦粉のみのコントロールとほとんど差が認められなかった。一方α化処理米粉添加では,全糖量は前者の2倍以上となり,長時間にわたって高いレベルが維持された。
7. 発酵中における糖組成の消長を調べた結果,小麦粉のみの場合,初期発酵の段階でグルコース,フラクトース,シュクロースおよびラフィノースは減少した。マルトースは極めて高含量を示し,発酵後約1.5時間から減少し始めたが,これはマルトース発酵への移行が起ることによるものである。生米粉添加では初期発酵の段階からマルトースが減少したが,これはマルトース発酵によるものではなく, α-グルコシダーゼによる加水分解作用によるものであると考えられ,一方でグルコースの増大が認められた。またα化処理米粉添加では,マルトースが小麦粉のみに比べ2倍以上に増大し,マルトース発酵が長時間にわたって高く維持されたのは,このためであることがわかった。
8. 以上の結果から,生米粉を添加した時に認められる初期発酵の増大は,生米粉中に存在するα-グルコシダーゼによってマルトースがグルコースに分解されるためであり,一方, α化処理米粉を添加した時に認められる後期発酵つまりマルトース発酵の増大は, α化した米粉中のでん粉が,小麦粉中に存在するβ-アミラーゼの基質となり,マルトースが多量に生成されたためであるといえる。

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