抄録
柑橘果実の各品種における苦味物質の含量および時期別変化,ならびに果汁の苦味について検討した。
(1) 果汁および柑橘果実の各部位に含まれるナリンギンの定量法について,高速液体クロマトグラフィー(HPLC法),水素化ホウ素カリウム還元法およびDAVIS変法を比較検討した。HPLC法は,ナリンギンの分離が良く,最も正確に定量できる方法であった。水素化ホウ素カリウム還元法は,比較的HPLC法に近似した値を示したが, DAVIS変法は過大な値を示した。なお,再現性は3法とも良好であった。
(2) 品種別,時期別,果実の部位別およびリーマー搾汁果汁の苦味物質の含量について調べた。果実の成熟に伴い,各部位およびリーマー搾汁果汁のナリンギン,リモニンおよびノミリン含量は減少し,特にノミリンは早い時期に減少がみられた。ナリンギン含量はじょうのう膜,果芯およびアルベドでは300~1200mg/100gと多く,フラベドおよび果肉では100mg/100g以下と少なかった。リモニンおよびノミリンは種子では1000~2000ppmと著しく多く含まれ,果皮およびじょうのう膜では500ppm以下であった。果肉では,リモニンは30ppm以下,ノミリンは10ppm以下と最も少なかった。
(3) 4種の搾汁装置を用いて中晩生柑橘を搾汁し,得られた果汁の品質を比較した。インライン搾汁機では,ピールクリアランスの広い方が,苦味物質の少ない果汁が得られた。リーマー型試験搾汁機では,インライン搾汁果汁とほぼ同量の苦味物質を含む果汁が得られた。合成ゴムベルト式圧搾機およびスクリュープレス搾汁機では,プレス圧の低い個所からは苦味物質の少ない果汁が得られたが,プレス圧が高くなると苦味物質が多くなった。搾汁法および搾汁条件が異なることにより,果汁の苦味物質の含量は2~3倍の差がみられた。
(4) モデル液(糖度12°Bx,酸度0.45g/100g,ビタミンC 30mg/100gおよびpH3.5の水溶液)を用いて,ナリンギン,リモニンおよびノミリンの苦味について官能検査を行った。パネルの50%が苦味を感じる最低濃度は,ナリンギンでは8mg/100g,リモニンでは4ppmおよびノミリンでは3ppmであった。パネルの100%が苦味を感じる最低濃度は,ナリソギンでは20mg/100g,リモニンでは12ppmおよびノミリンでは8ppmであった。