抄録
製造時に添加された硝酸塩のグリーンチーズ中への保留と熟成過程における硝酸塩の還元ならびに亜硝酸塩の生成,さらにチーズの微生物,特にかびスターターとして用いられるP. candidumのチーズ中硝酸塩の還元に対する関与を確認するために,硝酸塩添加チーズ(0.2g/原料乳1kg)を作成し,カマンベールとブルーおよびゴーダチーズとの比較試験をした結果,以下の知見を得た。
(1) 製造時に添加した硝酸塩は,ゴーダで7~8%,カマンベールでは13~15%がグリーンチーズ中に保留され,グリーンチーズ中の硝酸態窒素含量は,ともに約15μg/g程度で,固形分中含量は約30μg/gであった。
硝酸塩保留率とグリーンチーズ中水分含量との間には有意の相関が認められた。
(2) 熟成期間中,ゴーダでは硝酸塩の還元はほとんどみられなかったが,カマンベールでは硝酸塩の還元が顕著で,それに伴ない亜硝酸塩の生成が観察され,2~3週目頃をピークとしてその後亜硝酸塩も還元され消失した。ブルーではカマンベールに比べ緩慢ではあったが硝酸塩および亜硝酸塩の還元が認められた。
カマンベールの亜硝酸塩の最大生成期と食用適期とはほぼ一致していた。
(3) カマンベールのかびスターター無接種群では,熟成がほとんど進まず硝酸塩の還元および亜硝酸塩の生成も観察されなかったが,同一のグリーンチーズにかびスターターを接種すると,著しい硝酸塩および亜硝酸塩の還元が認められた。
(4) チーズから分離された細菌叢は,カマンベール,ブルー,ゴーダの3種チーズの間で相違はなく,一方分離された硝酸還元活性を有するかびは,同定の結果白かびスターターに由来するP. candidumと,青かびスターターに由来するP. roquefortiiであった。
(5) 以上の結果から,カマンベールチーズで観察された顕著な硝酸塩および亜硝酸塩の還元傾向は,P. candidumの硝酸および亜硝酸還元酵素活性に依存するものと考えられる。