日本食品工業学会誌
Print ISSN : 0029-0394
小麦粉ドウ物性に対するグルテニンとグリアジンの役割
デューラム小麦粉と普通小麦粉の比較
稲熊 隆博相原 茂夫森田 雄平
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1989 年 36 巻 6 号 p. 437-447

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抄録

デューラム,強力,薄力の3種の小麦粉にグリアジンとグルテニンを添加してファリノグラフを利用してドウ物性の変化を調べた.グリアジンの添加については3種の小麦粉ともに似の変化を示し,タンパク含量の増加と共に最大コンシステンシーが上昇してPeak time が減少したがTolerance indexも顕著に増大した.一方,グルテニンの添加ではTolerance indexの値は小さかったが,普通小麦粉の場合はコンシステンシーの上昇にしたがってPeak timeが減少したのに対して,デューラム小麦粉では逆に増大する傾向を示した.澱粉と単一成分のタンパク質からなる系のドウ物性はどの組合せにおいても類似のファリノグラフパターンを呈し,グルテニンとグリアジンの両方が存在しないと安定なドウが形成されないことが明らかとなった.また,上記タンパク質-澱粉系のグルテンマトリックスを光学顕微鏡で観察した結果,単一タンパク質系ではマトリックス構造が互いに孤立した状態で分散していたのに対して完全な小麦粉ドウの場合はグルテンの網目構造が緻密で組織化されていた.また,デューラム小麦粉の系では相対的に網目構造の網目が大きく,ファリノグラフ吸水率は低いが,ドウ形成に要する時間は長く,安定度の高いドウを形成した.ドウのグルテンマトリックスの保水性は本質的にグルテニンの特性に依存すると考えられるが,その水分含量はグルテンマトリックス中でのグリアジンの存在状態によって調節されていることが示唆された.

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