理論と方法
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特集 社会規範への数理社会学アプローチ
繰り返しゲームにおける社会規範の内面化と自己制裁:
規範に従う心
吉良 洋輔
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2017 年 32 巻 2 号 p. 271-289

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抄録

 本稿では,合理的なアクターが社会規範から逸脱した場合の個人内反応を考察するため,繰り返しゲームにおける自己制裁を分析する.自己制裁は,良心の呵責や反省などの心理的反応や,辞職・自らに対する暴力といった物理的・経済的行為で,自らの効用を下げる行動である.本稿で考察する自己制裁付き規範戦略の均衡では,規範的行為を怠った場合に,外的制裁として他者から費用付き制裁が行使されることに加え,本人が自らを罰する自己制裁が行われる.また,本稿で分析する「規範行使ゲーム」は,規範的行為が持つ外部性のパラメタの値によっては,N人囚人のジレンマに加え,Inefficient normの利得構造も表現できる.モデル分析の結果,以下の3点が確認できた.まず,自分に害を加える自己制裁によって,より広いパラメタの範囲で均衡を維持することが可能になる.次に,N人囚人のジレンマ条件では,自己制裁と規範的行為の停止のみを行う戦略によって規範的行為を均衡として維持することができる.最後に,規範的行為の外部性が小さいか負となるInefficient normは,自己制裁と規範的行為の停止だけで維持することはできず,必ず外的制裁が必要となる.

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© 2017 数理社会学会
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