理論と方法
Online ISSN : 1881-6495
Print ISSN : 0913-1442
ISSN-L : 0913-1442
32 巻, 2 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
論文
  • 求人情報サイトへのトピックモデルの適用
    麦山 亮太, 西澤 和也
    2017 年 32 巻 2 号 p. 214-227
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,新卒求人情報サイトのデータから,企業が新卒者に対して求める能力の構造を明らかにするとともに,その企業規模による違いを検討することにある.先行研究は,近年ほど企業が学生へ自律的な能力を求めるようになってきたと主張する.しかし,これまでの研究は大企業を中心に検討されており,企業規模間での差異は十分に明らかにされてこなかった.そこで本稿は2016年に新卒求人情報サイトより収集した大小含む20859企業の「求める人物像・採用基準」に関する自由記述データを用い,企業の求める能力が企業規模によっていかに異なるのかを検討する.トピックモデルを用いた分析の結果,企業が新卒者に提示する能力は多様であるのみならず,企業規模によって重視される点が異なっていることが示された.大企業においては主として新たな課題や価値を創り出し解決していく自律的な能力が提示される.一方で中小企業においては,チャレンジ精神やアピアランスといった,真面目さや規律の遵守と結びつく能力が提示される.とくに中小企業においては,先行研究で増加していると指摘されてきた自律的な能力とは別様の能力が重視されていることを明らかにした.

特集 社会規範への数理社会学アプローチ
  • 大林 真也
    2017 年 32 巻 2 号 p. 228-241
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー
  • 規範と法
    飯田 高
    2017 年 32 巻 2 号 p. 242-256
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,社会現象としての法が数理モデルのなかでどのように表現されうるかについて,社会規範研究と対比させる形で検討することである.まず,社会規範と法をめぐる近年の議論を概観しながら法の位置づけを整理し,経済モデルを含む数理モデルにおける法の捉え方の問題点を指摘する.そこでは,公的機関は法が成立するための必要条件ではなく,実際の法制度は多数のアクターの行動が調整されてはじめて作動する,という点が強調される.次いで,集合的なサンクションによって規範が実効化される様子を描写した簡単なモデルを提示し,社会規範と法の違いを表す方法について述べる.社会規範と法はどちらも,他者の行為に関するプレーヤーの信念を形成してサンクションという集合的行動を容易にするという機能をもっており,その点で連続性を有する.この連続性を考慮した法の定式化を示すとともに,人々の信念の変更によってのみ法は行動に影響を及ぼしうるということを論じる.

  • 三隅 一人
    2017 年 32 巻 2 号 p. 257-270
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー

     本稿は連帯のメカニズムを寛容と規範の観点からフォーマルに論じる.連帯を,関係基盤シンボルを介した<われわれ関係>と定義し,どのような関係基盤シンボルによる連帯をよしとするかを示す信念をブール式で定式化する.寛容する連帯は普遍主義と相対主義の両立という矛盾を抱えるが,寛容を規範実効化の制限としてみると,そこに至る道標を村上陽一郎の「より摩擦の少ないと思われる解」LCSに求めることができる.また,リベラル・ナショナリズム(リベラル普遍主義)等の理念をメタ信念としてブール式で表し,その受容をめぐる寛容さをLCSに準拠して考察できる.これらの分析から,第一に,LCSを基準として信念の寛容さを析出し,寛容な信念が行為主体の立ち位置によって異なることを示した上で,その使い分けが寛容する連帯の重要なヒントになることを論じる.第二に,メタ信念の受容の分析から,リベラル普遍主義はLCSに照らして明らかに寛容とはいえないが,適度の寛容さをもちつつ理念的に整合する点で寛容する連帯に適合することを論じる.以上により,規範の働きを考慮しつつ連帯のメカニズムを解明するための,関係認識論的なマイクロ・マクロ・リンクの可能性を示す.

  • 規範に従う心
    吉良 洋輔
    2017 年 32 巻 2 号 p. 271-289
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー

     本稿では,合理的なアクターが社会規範から逸脱した場合の個人内反応を考察するため,繰り返しゲームにおける自己制裁を分析する.自己制裁は,良心の呵責や反省などの心理的反応や,辞職・自らに対する暴力といった物理的・経済的行為で,自らの効用を下げる行動である.本稿で考察する自己制裁付き規範戦略の均衡では,規範的行為を怠った場合に,外的制裁として他者から費用付き制裁が行使されることに加え,本人が自らを罰する自己制裁が行われる.また,本稿で分析する「規範行使ゲーム」は,規範的行為が持つ外部性のパラメタの値によっては,N人囚人のジレンマに加え,Inefficient normの利得構造も表現できる.モデル分析の結果,以下の3点が確認できた.まず,自分に害を加える自己制裁によって,より広いパラメタの範囲で均衡を維持することが可能になる.次に,N人囚人のジレンマ条件では,自己制裁と規範的行為の停止のみを行う戦略によって規範的行為を均衡として維持することができる.最後に,規範的行為の外部性が小さいか負となるInefficient normは,自己制裁と規範的行為の停止だけで維持することはできず,必ず外的制裁が必要となる.

  • 規範と選好
    毛塚 和宏
    2017 年 32 巻 2 号 p. 290-304
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー

     本論文では,社会規範の研究において選好の進化によるアプローチが有効である可能性を,具体的な問題に当てはめた分析を通して示す.まず,本論文で用いる分析枠組みを提示する.次に,性別役割分業を題材として,選好の進化による分析例を示す.分析では,C. Hakimの選好理論(Hakim 2000)を,Breen and Cooke(2005)によるモデルをベースとして分析を行う.結果は男女の賃金格差が縮小し,家事・育児のコストが少ない場合に,男性側の選好の変動によって,共働きする夫婦が存在する結果となった.以上の分析結果から社会規範の分析に選好の進化が次の2点で貢献することを示唆する.1点目は意思決定と複製(普及)のメカニズムを別々に扱うことができること,2点目は選好の変動を扱うことができることである.

小特集 公的統計の現在にあたって
  • 村上 あかね
    2017 年 32 巻 2 号 p. 305-309
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー
  • オンサイト利用を中心に
    中村 英昭
    2017 年 32 巻 2 号 p. 310-320
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー

     平成19年,統計法が60年ぶりに改正され,改正後の統計法(平成19年法律第53号.以下「新統計法」という.)では,統計データの利用促進と秘密の保護に関する諸々の規定が盛り込まれた.政府は,おおむね5年ごとの法定計画である「公的統計の整備に関する基本的な計画」(以下「基本計画」という.)に統計データの有効活用の推進に関する事項を具体的な施策として盛り込み,統計データの二次的利用の促進に努めてきたところである.その後約10年が経ち,平成28年末に経済財政諮問会議が決定した「統計改革の基本方針」に基づき,平成29年1月に統計改革推進会議が設置され,5月には改革の大きな方向性が取りまとめられた.本稿では,新統計法施行後の統計データの二次的利用の状況や課題の検討状況,統計改革の動向や基本計画見直しの議論,今後の方向性等について紹介する.

  • 公的統計データの社会学研究への利活用
    伊藤 伸介, 石田 賢示, 藤原 翔, 三輪 哲
    2017 年 32 巻 2 号 p. 321-336
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー

     本稿では,公的統計の個票データ(調査票情報)の申請と活用の方法について解説した.統計法改正により,現在では,公益性のある学術研究ならば,公的統計の個票データにもアクセスできるようになっている.利用申請が承認されたのちには,テキスト形式の個票データ,データのレイアウト表と符号表が収録されたCDRが届くことになる.個票データを自由に扱うことで,様々な変数の加工・作成やそれら変数間関連の分析をおこなうことができる.公的統計の個票データの分析で基礎的な変数の関連パターンを精確に明らかにできるため,そこから導かれた発展的な問題に対しては個別具体的な社会調査でアプローチする研究プロセスが考えられる.そのように,公的統計の個票データと社会調査データを組み合わせることで,優れた計量社会学的研究が蓄積していく可能性が拓かれる.

コミュニケーションズ
書評
編集後記
feedback
Top