脳と発達
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症例報告
免疫療法が著効し, 自己免疫による発達退行と考えられた1例
上野 弘恵池田 ちづる島津 智之岡田 拓巳澤田 貴彰水上 智之石津 棟暎松田 悠子佐々木 征行高橋 幸利
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2018 年 50 巻 4 号 p. 282-287

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抄録

 生来発達に問題のない2歳男児で, インフルエンザウイルス罹患時に全般性強直間代発作があり, その頃より徐々に酩酊様歩行, 易転倒性, 流涎の増加を認め, 有意語も徐々に減少した. 発達退行が段階的に進行し, 発症から約12か月後には自力での移動や寝返りは不可で, 殆ど有意語を発さない状態となった. 血中/髄液中抗グルタミン酸受容体 (glutamate receptor ; GluR) 抗体, 血中抗電位依存性カリウムチャネル (voltage-gated potassium channel ; VGKC) 複合体抗体の上昇を認め, 免疫グロブリン大量療法を施行したところ, 投与後数日で寝返り可能となり, その後歩行可能となった. また, 有意語も徐々に増加した. ステロイドパルス療法の追加でさらに発達の伸びを認め, 免疫療法開始前の発達指数 (DQ) は40であったが, 治療後はDQ71まで上昇した. 免疫療法が著効したことより, 病態への自己免疫的機序の関与が強く示唆された. 本症例の主症状は小脳症状であり, 抗glutamate receptor D2 (GluD2) 抗体が病態に主として関与したと推察した. 発達退行を呈す症例では, 自己免疫的機序による治療可能な病態も鑑別に挙げる必要がある.

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© 2018 一般社団法人日本小児神経学会
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