脳と発達
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症例報告
発作性交感神経機能亢進を合併した唾液分泌過多に対し, アトロピン硫酸塩が著効した重症心身障害児の1例
堀田 阿紀下村 英毅中山 栗太寺崎 英佑徳永 沙知牟禮 慎子田中 靖彦皆川 京子竹島 泰弘
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2021 年 53 巻 1 号 p. 39-43

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抄録

 重症心身障害児の唾液分泌過多は皮膚炎や脱水症などの医学的問題に発展することがあるが, 標準的治療法は確立されていない. 唾液分泌過多は, 唾液分泌量の増加による真性と, 嚥下機能の低下による仮性の2つに分類される. 我々は重度な唾液分泌過多に発作性交感神経機能亢進 (paroxysmal sympathetic hyperactivity ; PSH) が合併した症例に対して, アトロピン硫酸塩とclonidineを投与して良好な経過を辿った症例を経験した. 症例は2歳5か月男児, 低酸素性虚血性脳症に伴う脳性麻痺であり, 仮性唾液分泌過多と診断していた. 生後10か月時に唾液分泌過多と注入不良による脱水症で心肺停止をきたした. 以降, 唾液分泌過多が増悪し, あわせて高体温, 頻脈, 筋緊張亢進などの交感神経機能亢進症状が発作的に出現した. 唾液分泌量の測定で増加を認め, 真性唾液分泌過多と診断した. 心肺停止によりPSHが発症し, PSHにより惹起された真性唾液分泌過多と考え, ロートエキス内服, スコポラミン軟膏塗布を行うも無効であった. 真性, および仮性唾液分泌過多に対しアトロピン硫酸塩の持続点滴を行い, 唾液分泌量は減少した. さらにPSHに対してclonidine投与を行ったところ, PSHの頻度の減少と唾液分泌量の減少とともに, 脱水症の頻度は減少した. 重症心身障害児の唾液分泌過多はアトロピン硫酸塩による治療が有効である可能性が示された.

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© 2021 一般社団法人日本小児神経学会
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