2021 年 53 巻 2 号 p. 142-145
近年, 脊髄性筋萎縮症 (SMA) の新しい治療薬としてsurvival motor neuron (SMN) 2をターゲットとするアンチセンスヌクレオチドであるnusinersenが市販された. 乳児型SMAでは早期治療が推奨されているが, 胎児期発症の最重症型であるSMA0型の治療報告は少ない. 今回, 我々はnusinersen治療を行ったSMA0型の男児例 (2歳3か月) を経験したので報告する. 症例は満期正常産で, 生直後から重度の筋力低下, 筋緊張低下, 呼吸障害, 四肢の関節拘縮を呈し呼吸管理を要した. 生後9週にSMN1遺伝子の欠失 (SMN2遺伝子は2コピー) が判明し, 胎児期発症の症状を含めSMA0型と診断した. 生後10週からnusinersen髄腔内投与を開始し, 初回投与の1週後に左前腕の運動機能の改善を認めた. 生後4か月時に咽頭軟化症のため気管切開術と人工呼吸管理が必要となった. 術後, 呼吸状態の安定と運動機能の改善を認めた. 生後9か月の退院時には人工呼吸管理, 経管栄養, 頻回の気管内吸引が必要であった. 退院後もnusinersen治療による副作用は認めていない. 現在, 発語はないが短時間の坐位保持と1時間の呼吸器離脱が可能である. CHOP INTENDは治療開始前の3点から47点まで改善している. SMA0型でも早期診断とnusinersen治療により運動機能の改善が期待できることが示唆されるが, 長期的効果の検証には今後の症例の蓄積が必要である.