脳と発達
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症例報告
小脳腫大により脳ヘルニア徴候を認めた劇症型片側小脳炎の1例
藤本 貢輔江間 達哉村上 智美奥村 良法高橋 幸利松林 朋子
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2024 年 56 巻 2 号 p. 134-138

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抄録

 急性小脳炎は比較的予後良好な疾患であるが,ときに脳ヘルニアを来たす劇症型小脳炎を呈することがある.我々は片側小脳炎により切迫脳ヘルニアを来たし,髄液中抗グルタミン酸受容体(glutamate receptor;GluR)抗体が陽性となった劇症型小脳炎を経験した.症例は5歳6か月女児,発熱と嘔吐で発症し,第2病日に偏視と意識障害が出現した.頭部MRIで右小脳の腫脹と脳幹圧迫所見を認め当院に転院した.ステロイドパルス療法と高浸透圧療法を行い症状は一時改善したが,高浸透圧療法終了後に再度の意識変容をきたしMRIで切迫脳ヘルニア所見を認めたため,外減圧療法を考慮しつつ鎮静人工呼吸管理下で治療した.抜管後には右半身の失調と座位保持困難を認めたが,リハビリテーションにより介助歩行可能となり第41病日に退院した.発症7か月後でMRI上は右小脳半球の萎縮を認めたが,失調症状はごく軽微で日常生活に支障はない.本症例では原因微生物は検出されず,髄液検体より抗GluR抗体が検出されたが今回の病態への関与は不明である.劇症型小脳炎は小児神経領域における緊急疾患であり,外科的治療適応を考慮しつつ積極的に高浸透圧療法および免疫抑制療法を検討すべきである.

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© 2024 一般社団法人日本小児神経学会
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