思春期世代のおおよそ25~84%が眠気を訴えている.その主な原因は睡眠不足だが,思春期の睡眠不足の自覚は週前半には低く,後半で高まる.思春期世代は平日に抱えた睡眠不足を週末に取り戻していると考えられる.週末(休日あるいは非登校日)と平日(登校日)の睡眠時間の差異をWeekend catch-up sleep(WeCUS)またはWeekend oversleep(WeOS)と称するが,この指標は睡眠不足を反映すると考えられている.本稿では思春期のWeCUS/WeOSの現状と今後の課題を記載する.本邦の10歳代群の週末と平日の平均睡眠時間の差異は近年延長し,2020年の値は1.3時間となった.報告例からすると,WeCUS/WeOSは女子で長く,年齢が上がるにつれて,また始業時刻が早いほど延長する.しかしWeCUS/WeOSとクロノタイプ,抑うつ,危険を伴う行動,自殺想起/企図,睡眠覚醒に関する課題,体重,学業成績,眠気との関連については研究結果が一致していない.本邦中高生の非登校日の平均睡眠時間は,思春期に必要な睡眠時間と推察した8.5時間に達しておらず,現状のWeCUS/WeOSでは本邦の思春期世代の潜在的睡眠負債解消には十分ではない可能性がある.潜在的睡眠負債改善の重要性が理解されはじめており,慢性の睡眠不足に苛まれている思春期世代に対する効果的な改善策の構築が特に日本においては急ぎ求められている.
【目的】重症心身障がい児施設「すこやか」の短期入所が開設して5年が経過した.短期入所の利用状況と,体調悪化による早期退所の症例を調査した.安全に短期入所利用を行うために何が重要かを検討し,当施設に求められる役割を踏まえ今後の課題を考える.【方法】2022年3月に短期入所の契約を継続している重症心身障がい児99名を対象に年齢・主病名・人工呼吸器,気管切開,経管栄養,てんかんの有無を調査した.開設から2022年3月までの予約利用状況を集計し,早期退所した症例について患者背景や退所理由を診療録より後方視的に調査した.【結果】短期入所契約者の67%が20歳未満で,77%が周産期と先天性に起因していた.人工呼吸器装着児は41%,気管切開児は44%,経管栄養児は73%,てんかん合併児は68%であった.利用状況は,予約率は90%,利用率もCOVID-19によるパンデミック前は80%を超す年が多かった.超・準超重症児の利用が年々増加し,医療度の高い児が繰り返し使用していた.体調不良での早期退所は,年間5名前後であり,高度医療的ケア児と,低年齢児が多かった.【結論】今後の短期入所は,症状が不安定な乳幼児と,高度医療的ケア児の利用増加が予想される.短期入所を安全に行うには,毎回保護者から丁寧に情報収集を行い,自宅と同様のケアを心がけることが重要である.さらに原疾患の安定が重要であり,そのためには,他院との連携,主治医との情報共有が今後の課題となる.高度医療的ケアを必要とし移動可能な障がい児の短期入所も今後の大きな課題としてあげられる.
【目的】小児重症筋無力症(myasthenia gravis;MG)に対する急性期における免疫グロブリン静注(intravenous immunoglobulin;IVIG)療法の有効性および有効な患者の特徴を明らかにする.【方法】2010年4月1日~2022年3月31日の期間に15歳以下でMGと診断され,MGの急性期におけるIVIGの総投与量が1g/kg以上であった症例17例(うち男児6例,眼筋型8例,全身型9例)を対象とした.IVIG投与後14日以内にMG activities of daily livingが1以上改善した症例を有効と判定した.IVIG療法有効例は,治療後の経過も追跡調査した.【結果】発症年齢は中央値6.0歳(0.9~13.9歳)で急性期におけるIVIG療法は中央値6.9歳(1.1~14.1歳)で実施された.IVIG療法は8人に有効で,有効例では全身型MGが有意に多かった(p=0.02).有効例のうち1例は無投薬で2年以上寛解を維持し,4例は維持IVIG療法へ移行し治療終了から無投薬で2年以上寛解を維持できた.【結論】小児MGにおいて,急性期におけるIVIG療法の有効例は,全身型MGが有意に多かった.急性期におけるIVIG療法が有効な場合は,維持IVIG療法に移行することでステロイドを使用回避または減量できる可能性が示唆された.
Rasmussen脳炎(Rasmussen encephalitis;RE)は,まれな免疫介在性疾患であり,典型的には,焦点性てんかん発作で発症し,その後進行性の片側脳萎縮と機能障害を呈する.非典型例として,てんかん発作を伴わないまたは,後にてんかん発作を伴う例も報告されているが,これらは極めて稀で治療方針についてはほとんど知られていない.症例は3歳の女児で,1か月前から進行性する右上下肢の麻痺とジストニアを主訴に来院した.頭部MRI検査で左大脳半球の萎縮と左被殻,淡蒼球,尾状核に片側性病変を認め,数日後に右片側の間代発作を認めた.初診から20日後に尾状核生検が行われ,REと診断された.免疫グロブリン療法により片麻痺・ジストニアは改善したが,てんかんは徐々に悪化した.複数の抗てんかん薬による治療に抵抗性で,週に数回の発作を認めていた.長時間ビデオ脳波(long-term video electroencephalography;LT-VEEG)により,家族が気づかなかった様々なタイプの焦点性発作が頻回に確認された.てんかん発症から13か月後に大脳半球離断術が行われ,術後18か月間に渡り発作は消失したままである.LT-VEEGは,たとえ家族が頻繁な発作に気付いていなくても,REの状態を評価するために不可欠な検査と考えられた.
発作的な筋緊張亢進,頻脈,多呼吸,高体温を反復しparoxysmal sympathetic hyperactivity(PSH)と診断した滑脳症の1例を報告する.本例ではTUBA1Aに新規のバリアント(p.(Ala281Val))を有していた.PSHは頭部外傷後や低酸素性脳症など広範囲な脳損傷後に合併する病態として有名だが,脳形成異常を有する小児でも認識されるべき病態である.病態はBaguleyらのexcitatory:inhibitory ratio(EIR)モデルに基づいて考察した.本症例では大脳皮質が菲薄で深部白質はほぼ存在しないために中枢自律神経線維網の障害を生じPSHを発症したと考えた.治療にはgabapentin(GBP)が有効であった.GBPが脊髄への非侵襲的な刺激の流入を減らし脳および脊髄内でGABA agonistとして作用し抑制性入力が増強され,交感神経および運動神経への遠心入力が弱まった結果PSHが抑制されたと考察した.脳形成異常症に合併するPSHの病態解明や治療戦略を確立するためには症例の蓄積が必要である.
急性小脳炎は比較的予後良好な疾患であるが,ときに脳ヘルニアを来たす劇症型小脳炎を呈することがある.我々は片側小脳炎により切迫脳ヘルニアを来たし,髄液中抗グルタミン酸受容体(glutamate receptor;GluR)抗体が陽性となった劇症型小脳炎を経験した.症例は5歳6か月女児,発熱と嘔吐で発症し,第2病日に偏視と意識障害が出現した.頭部MRIで右小脳の腫脹と脳幹圧迫所見を認め当院に転院した.ステロイドパルス療法と高浸透圧療法を行い症状は一時改善したが,高浸透圧療法終了後に再度の意識変容をきたしMRIで切迫脳ヘルニア所見を認めたため,外減圧療法を考慮しつつ鎮静人工呼吸管理下で治療した.抜管後には右半身の失調と座位保持困難を認めたが,リハビリテーションにより介助歩行可能となり第41病日に退院した.発症7か月後でMRI上は右小脳半球の萎縮を認めたが,失調症状はごく軽微で日常生活に支障はない.本症例では原因微生物は検出されず,髄液検体より抗GluR抗体が検出されたが今回の病態への関与は不明である.劇症型小脳炎は小児神経領域における緊急疾患であり,外科的治療適応を考慮しつつ積極的に高浸透圧療法および免疫抑制療法を検討すべきである.
重症心身障害児施設長期入所者は,ブースター効果の機会が乏しく予防接種後も抗体が維持されにくいことが推察される.自施設内で18歳未満の水痘,ムンプス,麻疹,風疹ウイルスの酵素免疫法(enzyme immunoassay;EIA)のIgGの3年間の推移を検討した.調査期間の予防接種なしの群では,抗体価は減衰傾向を示し,特に水痘では平均抗体価が47%の減少と顕著であった.必要回数の予防接種を確実に行うとともに,以降の感染対策も注意を要する.
ADNP(activity-dependent neuroprotective protein)症候群は自閉スペクトラム症,知的発達症,特徴的な顔貌を呈し,乳歯の早期萌出を特徴とする.症例は13歳男子,全エクソーム解析でNM_001282531.2(ADNP):c.2496_2499delが同定され,同変異の既報より知的発達症は重度であった.今後,症例が集積され遺伝型・表現型相関の解明が期待される.
てんかん重積状態時の病院前治療として使用したmidazolam(MDL)口腔用液の有害事象について日本小児神経学会会員にアンケート調査した.回答数は431人(回答率12.0%)であった.MDL口腔用液総投与例580例中,有害事象(呼吸抑制,ふらつきによる転倒・外傷,1時間以上の鎮静)は14例(2.4%)であった.14例中,呼吸抑制が7例であった.てんかん重積状態時にMDL口腔用液投与の際には,有害事象として呼吸抑制を念頭に置く必要がある.