抄録
多因性遺伝とは多数の遺伝子と多くの環境要因とが, その形質成立に複雑に関与しているものをいい, その易罹病度 (Liability) は多因子性遺伝のしきい説で説明される.
この範疇に小児神経学で入る中枢神経疾患とは, 種々の脳奇形, てんかんや精神薄弱などである.
多因子性遺伝疾患の遺伝相談の際は, 多くの家系資料をもとにして算出された経験的危険率を一般的に応用する.このリスクを発端者の子供または同胞に対する再発危険率に限ると, 一般集団頻度のほぼ平方根に等しいことが理論的に推定されている.
種々の疾病に対する経験的危険率を概観すると, 次のようなことが一般的にいえそうである. (1) 両親および血族に異常者がいなくても, 一人患児を持った場合の再発危険率は, 一般頻度よりかなり高いものとなる.これは両親および血族に異常者がいた場合でも, 同様である. (2) 発端者より血縁が遠くなればなるほど, その経験的危険率は低下する.
なお, 脳奇形などの遺伝相談において注意しなければならないのは, 臨床的に全く同一疾患であっても, メンデル遺伝様式をとる脳奇形の存在である.それらは, 当然理論的危険率により推定されるべきである.
てんかんや精神薄弱の経験的危険率は, 脳奇形のそれに比し, 遺伝的要因の関与度も高く相当なリスクとなっている.従来の経験的危険率の資料は諸外国のものが圧倒的に多い.民族差や地域差を考慮した日本人に適応される経験的危険率の調査が今後の大きな課題であろう.