2017 年 60 巻 4 号 p. 181-188
エナメル上皮腫は, 良性の歯原性腫瘍の中で, 最も頻度の高い疾患である。 下顎に発生することが多いとされるが, 今回われわれは, 上顎骨に発生したエナメル上皮腫の1例を経験したため, 若干の文献的考察を加えて報告する。
症例は61歳, 男性。 右頬部腫脹を主訴に前医を受診した。 画像検査にて右上顎洞に嚢胞性疾患を認め, 上顎洞骨壁を圧排し, 骨の菲薄化を伴って頬部が腫脹していたため, 治療目的に当院当科紹介となった。 診断及び治療を目的に内視鏡下鼻内副鼻腔手術を施行した。 嚢胞壁を大きく摘出し, 病理検査に提出した。 右上顎洞下壁の顕著な菲薄化により, 嚢胞壁の摘出により右上顎洞と口腔が交通する可能性があったため, 下壁のみ嚢胞壁は温存して手術終了とした。 病理検査にてエナメル上皮腫の診断となり, 後日, 追加治療として上顎部分切除術を施行した。 術後経過は良好であり, 現在外来経過観察となっている。
エナメル上皮腫は病理学的には良性腫瘍とされているが, 骨破壊性に発育し, 遠隔転移をきたす場合がある。 また, 手術加療後の再発率が高いことで知られ, 稀に悪性転化する可能性もある疾患である。 下顎に発生することがほとんどであるが, 上顎に発生した場合, 本疾患のように頬部腫脹などの症状を主訴として, 耳鼻咽喉科を受診することもあるため, 本疾患も念頭において診療を進めるべきと考えた。