われわれが日常遭遇する骨腫は骨組織と連続した部位に発生する腫瘤を指し, 頭頸部領域では硬口蓋や下顎骨などの顎骨周囲, また鼻副鼻腔に生ずる例が多い。 一方骨性分離腫とは, 骨組織と連続性のない組織に正常骨組織が異常増殖したものであり, 病理学的には層板状構造からなる成熟した骨梁を, 正常な重層扁平上皮が被覆する構造を呈しており, これは一般に知られている骨腫と同様の構造とされる。
患者は52歳, 女性で, 30年前から咽頭の腫瘤性病変を指摘されていた。 初診時所見では腫瘤は舌根に存在し, 表面平滑で被膜の一部に血管の走行がみられた。 触診上腫瘤は硬く, 茎は有せず可動性はなかった。 また疼痛や接触痛もなかった。 全身麻酔下の切除生検を計画していたが, 腫瘤と舌根深部組織の境界は明瞭であったため一期的に摘出した。 切除された腫瘤は 10×7×5mm 大で乳白色の色調を呈しており, 茎や流入・流出血管の類はみられなかった。 病理所見では, 被覆された粘膜上皮基底層の配列に乱れはなく, 粘膜下腫瘤は層板状の構造を有する骨類似の組織であった。 以上より骨性分離腫と診断した。
今回経験した舌根の骨性分離腫は, 骨組織と連続性のない舌根粘膜下に発生したものであった。 本邦でこれまでに報告された事例は, われわれの渉猟し得た範囲で81例あり, 比較的まれな部位における発生例と考えられた。