応用物理
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研究紹介
30K級のキュリー温度を有する有機ラジカル強磁性結晶の創成
美藤 正樹高木 精志石塚 守
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2021 年 90 巻 1 号 p. 45-49

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抄録

軽非金属元素によって構成される有機化合物において,「不対電子(ラジカル)のスピンで強磁性体を創出する」という試みは,化学者による長い格闘によって成就した.その後,物理屋による「高圧力」を利用した結晶構造操作は,分子軌道の重なりを上手に操作できれば強磁性転移温度(キュリー温度)を上昇させることができることを実証した.この度,高圧力下の結晶構造解析と第一原理計算が「強磁性相互作用ネットワークが高圧力下で最適化される」と予測した有機ラジカル結晶に対し,高圧力下精密磁気測定を実施し,これまで見いだされた有機強磁性状態で最もキュリー温度が高く,理想的な強磁性状態が実現されていることを実証した.高圧力物性実験は試料体積の減少を要求する.磁化は示量性の物理量であり,高圧力下での磁化(率)測定には超伝導量子干渉素子とロックイン検出が必要であり,技術的な蓄積を要する測定分野である.1991年に有機ラジカル結晶で初めて強磁性秩序状態が見つかってから,キュリー温度が30Kに迫るところまでくるには,約30年の年月がかかった.高圧力下磁気測定技術の現状を解説しつつ,30K級のキュリー温度を有する有機ラジカル強磁性体の創成に至る経緯について解説する.

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© 2021 公益社団法人応用物理学会
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