2021 年 90 巻 2 号 p. 98-102
空間反転対称性の破れた結晶構造をもつ物質では,外部から電場を印加しなくても光吸収に伴って電流が発生する.この現象の起源は長らく未解明であったが,近年,シフト電流と呼ばれるメカニズムが主因であるとの理論的提案がなされている.シフト電流は,光学遷移に伴う電子波動関数の幾何学的位相の変化によって生じる,純粋に量子力学的な光電流である.我々はこの量子位相に駆動されるシフト電流の本質を実験的に明らかにすることに取り組み,シフト電流が欠陥などの散乱に対して極めて堅牢(けんろう)であること,また非常に高速の応答を示すことを実証した.このような優れた特性をもつシフト電流は,環境発電素子や光センサの性能を飛躍的に高める次世代の光電変換技術の基盤原理として有望である.