2021 年 90 巻 4 号 p. 221-229
ディジタルトランスフォーメーション(DX)時代において,従来型の電子材料の性能限界が深刻な問題となりつつある中,量子効果を利用することで飛躍的な機能を示す量子マテリアルの開発が全世界で進んでいる.中でもトポロジカル磁性体は,研究の歴史が10年もない新しい分野であるが,基礎学理の進展が近年目覚ましく,さまざまな応用研究にも波及効果をもたらすに至っている.量子制御という観点でみると,伝導電子の波動関数の量子位相をスピン構造で制御する技術開発である.これにより1世紀以上にわたり不可能と思われてきた機能,例えば反強磁性体による異常ホール効果,強磁性体の巨大磁気熱電効果をこの数年で実現できるようになってきた.ここでは,我々が世界に先駆けて発見してきたワイル反強磁性体やトポロジカル強磁性体の驚くべき物性を概説する.さらに,トポロジカル磁性体の基礎学理の構築がエネルギーハーベスティング,熱流センサ,そして,超高速不揮発性メモリなど,DX時代を支える次世代技術へと発展しつつある現状を紹介する.