昨今,量子技術への関心が高まり,ニュースでもしばしば量子コンピュータや量子インターネットなどの話題が取り上げられる.中でも超伝導回路を用いた量子コンピュータの研究開発は,米国Google社やIBM社といった大企業が先頭を切って取り組んでいることもあり,大きな注目を集めている.その背景には,超伝導量子コンピュータの核となる要素回路であり,その誕生から20年を経てもなお進化し続けている超伝導量子ビット研究の進展がある.本稿では,超伝導量子ビット研究の最近の進展を紹介し,今後の課題について議論する.長い歴史をもつ電気回路工学やマイクロ波工学の研究分野も,「量子」という新しい視点で捉え直すと,また違った世界が開けてくる.
ディジタルトランスフォーメーション(DX)時代において,従来型の電子材料の性能限界が深刻な問題となりつつある中,量子効果を利用することで飛躍的な機能を示す量子マテリアルの開発が全世界で進んでいる.中でもトポロジカル磁性体は,研究の歴史が10年もない新しい分野であるが,基礎学理の進展が近年目覚ましく,さまざまな応用研究にも波及効果をもたらすに至っている.量子制御という観点でみると,伝導電子の波動関数の量子位相をスピン構造で制御する技術開発である.これにより1世紀以上にわたり不可能と思われてきた機能,例えば反強磁性体による異常ホール効果,強磁性体の巨大磁気熱電効果をこの数年で実現できるようになってきた.ここでは,我々が世界に先駆けて発見してきたワイル反強磁性体やトポロジカル強磁性体の驚くべき物性を概説する.さらに,トポロジカル磁性体の基礎学理の構築がエネルギーハーベスティング,熱流センサ,そして,超高速不揮発性メモリなど,DX時代を支える次世代技術へと発展しつつある現状を紹介する.
グラフェンは伝導性の高い金属として知られるが,ナノメートル幅に切り出されたグラフェンナノリボン(GNR)は,量子閉じ込め効果によりエネルギーギャップが開き,一種のトポロジカル絶縁体として振る舞うことがわかってきた.一般に,トポロジーの異なる2つのリボン同士を接合すると,接合部分に0次元トポロジカル界面状態が生じる.最近筆者らは,このような界面状態がGNRの枝分かれ部分にも現れることを示し,さらに,分岐をつなげて周期ネットワークにすることで,トポロジカル界面状態を「原子」とするナノスケール2次元結晶を作ることを提案した.このような系では,その特異なバンド構造から,通常の物質と大きく異なったエキゾチックな物理現象が実現されることが期待される.本稿では,物性物理学に現れるトポロジーの概念に触れながら,GNRに備わるトポロジカルな性質を紹介する.
飛行時間測定弾性反跳粒子検出法(TOF-ERDA)はイオンビームを用いた分析手法の1つで,エネルギーが数~数十MeVのイオンビームを試料に照射し,反跳された試料内原子のエネルギーと飛行時間を同時に測定する.軽元素から重元素までの幅広い範囲の元素を元素分離して,かつ優れた深さ分解能で分析することが可能で,特に薄膜中の軽元素の分析に威力を発揮する.本稿では,我々が開発したTOF-ERDA装置と,その性能を評価した結果について述べる.また,リチウムイオン2次電池電極,および酸化チタン薄膜を評価した例を紹介する.
数千個のガス原子・分子が集団となったガスクラスタイオンビーム(GCIB)は,数eV程度の超低エネルギーイオンにもかかわらず高密度のエネルギーを表面近傍に付与するため,低損傷かつ低温での表面反応の促進を可能にする.我々はGCIB照射の特長を生かし,原子レベルの高精度加工技術として再注目されている原子層エッチング(ALE)への応用を検討している.本稿では,反応性分子として有機酸やジケトン分子を吸着させた金属膜にGCIB照射を行い,低温・ハロゲンフリーのALEを行った研究について紹介する.
日本のエネルギー政策は,3E+Sを基本としています.原子力などの安全確保(Safety)を前提に3つのE,すなわち安定供給,自給率の向上(Energy security),できるだけ効率的に安い価格で(Economy),気候変動対策など環境保全(Environmental conservation)に努めることです.安定したエネルギー供給の実現は,エネルギー政策における最重要課題であり,全ての事業の基盤になります.本稿では,脱炭素化社会実現に向けた日本のエネルギー戦略と今後の展望について解説します.