2025 年 94 巻 5 号 p. 237-243
多くの固体において数十MeVを超える高エネルギー重イオンが通過すると,その直線的な軌跡に沿って円柱状の損傷領域(イオントラック)が形成される.イオントラックの形成機構として現在最も支持されているのが非弾性熱スパイク機構である.イオンからのエネルギー付与によりその軌跡に沿って固体温度が上昇し,融点を超えて融解した領域が急冷され,イオントラックを形成すると考えられている.一方ダイヤモンドは準安定相であるため,加熱されても融解せず安定相である黒鉛に変わるため,上記モデルは直接適用できない.これまでダイヤモンドではトラックは観測されなかったが,我々はC60イオンを照射することによりトラックの形成に成功した.熱融解以外で初めて形成されたイオントラックでの知見を基に,イオントラック形成機構の現状の認識を紹介する.