抄録
現在普及している血圧計は,「コロトコフ音」の出現と消失に基づく聴診法で測定された血圧値により校
正されている.従来研究では,その音源について乱流に伴う渦や衝撃波面に伴う血管壁の急激な膨らみ
によるものであるとされてきたが,発生機序は十分に解明されていない.さらに,測定時の筋肉の影響も未
解決であり,数値解析と実験モデルの双方による検証が求められる.
本研究では,コロトコフ音の発生機序を検討する数値モデルの構築を目的として,Ansys Fluent を用い
たCFD解析を行った.上腕動脈を模擬した数値モデルを構築し,拍動を考慮した圧力境界条件を付与し
て血圧計測環境を再現した.流体には圧縮性流体モデルを適用し,構造側は剛体壁に加えて血管弾性
を考慮したモデルでも解析を行った.得られた圧力の時系列データに対し周波数解析を行い,特徴的周
波数帯域を抽出して,既存の循環モデルによる実測データと比較した.
本手法により,圧力および渦度の変動とその周波数特性においてコロトコフ音の発生を示唆する結果
が得られ,血圧計測を模擬したモデル構築に近づき,筋肉が測定精度に与える影響を評価できる可能性
が示された.今後は,血管と筋組織の相互作用を考慮した解析手法を確立し,非侵襲的血圧測定の信頼
性向上に寄与することを目指す.