抄録
市販リチウムイオン二次電池では一般に非水系電解液が用いられているが、その作動原理はHunterによる報告、「酸性水溶液処理によるLi0Mn2O4の生成」を基にしている。非水溶液を用いた電気化学酸化(EC-)と水溶液を用いた化学酸化(C-)の違いを明らかにするため、化学量論組成LiMn2O4及びLiNiO2を電気化学的及び化学的に酸化し、結晶構造と帯磁率(\chi)を調べた。その結果、スピネル構造を有するLixMnO4では\chiがEC-とC-でほぼ一致していたが、層状構造を有するLixNiO2ではC-Li0.01NiO2の\chiがEC-Li0.05NiO2の\chiより著しく大きく、Ni3+等の磁性イオンの存在が示唆された。そこで今回はEC-LixNiO2及びC-Li0.01NiO2のミュオンスピン回転・緩和(\muSR)測定及び熱分析を行い、電気化学酸化と化学酸化の違いをより詳細に調べた。その結果、C-Li0.01NiO2の\muSRスペクトルはLi+イオンが殆ど脱離されているにもかかわらず速い緩和を示した。これは試料中に大きな核磁場を有するH+イオンが存在していることを示し、熱分析測定でその存在が確認された。C-Li0.01NiO2の有効磁気モーメント(1.43 \muB)がEC-Li0.5NiO2と同程度であったことから、C-Li0.01NiO2の組成はH~0.5Li0.01NiO2と記述できることが分かった。