1993 年 42 巻 p. 169-172
右側大動脈弓により食道が圧排され,長期の機械的刺激による発癌が示唆された興味ある1例を経験した。症例は52歳男性。2年前からの“胸骨裏面のしみる感じ”を主訴に上部消化管造影検査を施行し,胸部上部食道に圧排所見を認め,食道の粘膜下腫瘍を疑い,内視鏡検査を施行した。上切歯より24cmの部位で,食道は左後壁より強く圧排され拍動し,同部位に1/3周性の0-Ⅱa+Ⅱb型表在癌を認めた。超音波内視鏡検査では,癌腫は大部分が深達度mmで,一部smを疑った。血管造影検査にて右側大動脈弓を確診し,左開胸開腹にて手術を施行した。細い奇静脈弓を認め,食道は大動脈弓と動脈管索により圧排されていた。切除標本では,深達度mmの早期癌であった。本症例のような食道周囲の血管系の異常,また粘膜下腫瘍など食道の隆起性または圧排性病変に対しては,癌の併存を念頭に置き,色素内視鏡検査を併用した注意深い粘膜面の観察と圧排部位からの生検が重要である。