症例は66歳男性。特に自覚症状なく,内視鏡検査を受けた。門歯列より約30cmの後壁に白色顆粒状の隆起と,その肛門側に発赤面が指摘され,ともにヨード不染を示し,0-Ⅱa+Ⅱc型食道表在癌が疑われた。白色顆粒状隆起から計4回生検したが,診断はmoderateないしはsevere atypiaであり,癌の診断に至らなかった。5回目の内視鏡検査で発赤部から生検したところ,癌細胞が全層性に存在し,乳頭状の下方進展も認められ,初めて食道癌の診断が下り,外科手術となった。新鮮切除標本所見と病理組織所見を対比することによって,肉眼的に発赤調の部分では癌細胞が粘膜表面に露出しているのに対し,白色調の部分は粘膜表面がhyperkeratosisによって覆われ,基底層近くに癌細胞が存在していることが判明した。本例のように,hyperkeratosisに癌が合併する症例があることを忘れてはならない。