症例は58歳男性。肛門出血を主訴に近医を受診し,精査・生検の結果,直腸肛門部悪性黒色腫との診断にて当院を紹介され,入院となった。注腸および内視鏡検査で,肛門管から直腸下部にかけて,直径2-3cm大の辺縁不整な隆起が2個接している像を認めたが,典型的な黒色調は示さなかった。術後の病理組織学的診断は「低色素性悪性黒色腫」であった。悪性黒色腫の診断において,一般的に生検は禁忌であるとされているが,無色素性もしくは低色素性の悪性黒色腫の場合,本例のように特徴的な黒色調を示さないことが多く,内視鏡的に診断することは困難である。直腸癌と悪性黒色腫とでは治療法の選択が異なる場合があり,現状ではその確定診断のために,やむをえず生検に頼らざるをえないことが多い。