1996 年 49 巻 p. 126-129
症例は77歳,女性。既往に胆石があり,近医に通院していた。平成7年12月11日より発熱,黄疸を認め,血液検査にて胆道系優位の肝機能障害がみられ,12月16日当院に紹介入院となった。腹部エコー,腹部CT検査より胆石を伴う急性胆囊炎が疑われ,抗生剤投与にて10日後には解熱,血液検査も改善したが,総胆管,肝内胆管の拡張が持続し,腫瘍マーカーも高値であったため,内視鏡的逆行性膵胆管造影を施行した。Vater乳頭膨大部の腫大,傍乳頭総胆管十二指腸瘻の形成が確認され,瘻孔部からの造影で総胆管の拡張,陰影欠損がみられ,腫瘍性病変が疑われた。内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)を施行し,腫瘍を露出させ,同部の生検より中等度分化型腺癌と診断した。傍乳頭総胆管十二指腸瘻を合併するVater乳頭部癌はまれであり,ESTを利用した組織生検の有用性を示した貴重な症例と考えられた。