1998 年 51 巻 p. 88-91
症例は56歳,女性。当院にて過去2回,食道早期癌に対してEMRを施行し,平成8年8月12日新たな食道内異時性多発癌に対して3回目のEMRを施行した。前回のEMR瘢痕部に接する肛門側断端に癌遺残が疑われ,11月18日EMR瘢痕部全域にNd-YAGレーザー照射を追加した。12月5日熱発と湿性咳嗽を自覚し,12月16日内視鏡検査にて膿の排出を伴う小穿孔部が認められ入院となった。胸部X線およびCTにて縦隔炎,右肺S6の膿瘍も認めた。禁飲食,抗生剤投与などの保存的治療を開始し,開胸ドレナージ術も考慮しつつ,内視鏡検査,造影検査,胸部X線,CTなどにて経過を観察した。症状は次第に軽快し,平成9年1月5日造影検査,1月6日内視鏡検査を施行し,穿孔部の閉鎖を確認し,経口摂取を開始した。EMR瘢痕部は組織修復機転が不良であり,追加レーザー照射は慎重を要し,穿孔例でも保存的治療が第一選択であると考えられた。