1998 年 52 巻 p. 66-69
症例は55歳,女性。49歳時大動脈炎および異型大動脈縮窄症にて人工血管置換術を受けた。平成9年2月19日昼,突然吐血し来院,再度吐血しショック状態にて入院。上部消化管内視鏡を施行したが,凝血塊が多量で出血点不明であった。第6病日内視鏡にて,噴門部後壁に直径2mm大の陥凹底から白色の粘液流出を認め,穿通潰瘍が疑われたが,胃内に出血,凝血塊なく,腹部単純X線写真にてfree airも認めなかった。第11病日再度ショック状態となり,緊急内視鏡を施行したが出血多量にて出血点は不明で,内視鏡的には止血不可能と判断し,緊急手術を行った。胃噴門部後壁の陥凹底からの出血を認めたが,出血多量にて死亡した。剖検所見では,人工血管分岐部(double velour graft)の大動脈と胃噴門部に穿通孔を認め,出血源と考えられた。内視鏡で診断困難なまれな症例と考え報告する。