日本歯周病学会会誌
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ある早期発症型歯周炎患者の妊娠期における歯周治療
滝川 雅之西村 英紀村山 洋二
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2002 年 44 巻 1 号 p. 37-45

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抄録

婦の歯科治療はとかく敬遠されがちであるが, 妊娠期には歯周病の発症および進行を防止するためにとりわけ厳密な歯周管理が必要である。本報告は, ある早期発症型歯周炎患者について, 当院における歯周治療中に妊娠となったため, さらなる歯周炎の進行と早産, 低体重児出産などのトラブルの発生を防止するために, 局所薬物配送療法を併用することで厳密な歯周管理に努めた臨床症例である。
患者は34歳の女性であり, 全顎的に重度の歯槽骨吸収を伴う下顎左側臼歯部の疼痛および動揺を主訴として当院を受診した。歯周初期治療後に歯肉剥離掻爬手術を行っていたが, 4度目の妊娠が判明したため外科的な処置は極力控える治療方針に変更した。なお, 妊娠初期に行った細菌検査 (PCR法) では, 患者の歯周ポケットからActinobacillus actinomycetemcomitans (Aa), Porphyromonas gingivalis (Pg) およびPrevotella intermedia (Pi) が検出された。また, Pg, Campylobacter rectus, Treponema denticola およびEikenella corrodensに対する血清IgG抗体価が健常者の値の2SDを超えて上昇していた。妊娠初期からsupportive periodontal therapy (SPT) を継続していたにも関わらず, 臼歯部の歯肉出血および動揺が著明となってきたため, 0.002%グルコン酸クロルヘキシジン注水下での超音波スケラーを用いた歯肉縁下のプラークコントロールおよび2%塩酸ミノサイクリン軟膏による局所薬物配送療法を試みた。その結果Aa, PgおよびPiは検出されず, 歯肉出血も減少したことから, 細菌叢の質的な改善がはかれたものと考えられた。今後, さらに妊娠時の安全でかつ効果的な歯周治療法を確立する上で, 類似の症例を積み重ねていくことが重要であろう。

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