日本歯周病学会会誌
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44 巻, 1 号
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  • 小川 貴也
    2002 年44 巻1 号 p. 3-20
    発行日: 2002/03/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, e-PTFE膜を用いて形成された歯根膜組織の治癒過程における硬組織形成能について検索することである。
    実験には, 20頭の雑種成犬を用いた。頬側の粘膜骨膜弁を前臼歯部に形成し, セメント・エナメル境 (CEJ) から根端側に約5mm歯槽骨を除去した。実験群はe-PTFE膜で露出根面を被覆し, 対照群はe-PTFE膜を応用せずに歯肉弁を復位, 縫合した。観察期間は, 1, 2, 4, 6, 8週とし, 骨およびセメント質形成量の組織計測, アンキローシスの有無について検索した。細胞増殖は, 増殖細胞核抗原 (PCNA) を用いて免疫組織学的に観察した。またアルカリフォスファターゼ (ALP) 活性の局在は, アゾ色素法による酵素組織化学法で観察し, 生化学的に定量分析も行った。さらに, オステオカルシン (OC) 量についても計測した。その結果, 術後1週では, 両群ともにPCNA陽性細胞は歯根膜組織内の歯槽骨側に近接した部位に多く発現し, PCNA陽性細胞率において有意な差を認めなかった。術後2週では, e-PTFE膜で形成されたスペースは紡錘形細胞によって満たされ, 著明な骨の新生を認めたのに対し, 対照群では新生結合組織によって占められ, 骨の形成はわずかであった。ALP陽性細胞は, e-PTFE膜を用いて形成された組織で観察され, とくに新生骨周囲に認めた。対照群では, 新生組織においてALP活性は減弱していた。術後6週では, 骨およびセメント質の形成は, e-PTFE膜を用いて形成された組織において露出根面に約80%観察されたが, アンキローシスは全く認められなかった。対照群では, 骨およびセメント質の形成は, わずかであった。術後8週でのOC産生量は, 実験群が対照群に比較し有意に高い値を示した (p<0.05)。以上の結果からe-PTFE膜を用いて形成された歯根膜組織は, 高い硬組織形成を伴う, 歯周組織の再生能を有することが示唆された。
  • 田隅 志保, 内藤 徹, 横田 誠
    2002 年44 巻1 号 p. 21-31
    発行日: 2002/03/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    本研究は, インプラント周囲組織の機能状態を分析することを目的として, 周囲組織の健全なインプラントと炎症のあるインプラントにおいて, 垂直的荷重による経時的な変位動態を測定した。
    健康なビーグル成犬6頭にスクリュータイプチタンインプラントの埋入を行い, インプラント頸部にデンタルフロスを結紮することにより実験的インプラント周囲炎を惹起させた。変位測定は, 炎症惹起前と炎症惹起後1~6ヵ月の1ヵ月毎に10~500gまでのおもりをインプラントに対して垂直的に加え, 高精度レーザー変位計を用いて行った。同時に歯周病学的臨床パラメータの測定とX線撮影を行った。
    その結果, 1) 周囲組織の健全なインプラントにおける荷重負荷時の変位量は天然歯と比較して小さく, その変位様式は, 天然歯が粘弾性的であるのに対して弾性的な挙動を示した。2) 30%程度の骨吸収が認められた炎症惹起後においても, 炎症惹起前と比較して変位量にほとんど変化はみられなかった。3) 炎症惹起後, 臨床パラメータのうち, PPD, PAL, 歯肉溝浸出液 (ペリオトロン値) が著しい変化を示したのに対し, 動揺度 (ペリオテスト値) のみ変化が認められなかった。
    以上より, インプラントは, 周囲組織に炎症が発生しても荷重に対する変位がほとんど生じないため, 機能状態の変化を感知しにくい。従って, インプラントの診査に機能評価を用いることは感度が極めて低いことが示唆された。
  • 長弘 謙樹, 鴨井 久博
    2002 年44 巻1 号 p. 32-36
    発行日: 2002/03/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    本症例では, 口呼吸が疑われる重度な歯肉炎症, 垂直性骨欠損, 上顎前歯部の突出や歯間離開など, 著しく歯周組織が破壊された重度成人性歯周炎に罹患した患者に対し, 十分なモチベーション, プラークコントロール, 咬合調整, スケーリング・ルートプレーニングなどの基本治療を行った後, Widman改良型フラップ手術昂行い, 歯列, 咬合, 審美性等の回復目的のため, MTMを実施した。特に, 下顎左側臼歯部の垂直性骨欠損に対し, 自家骨移植を行い, 骨欠損の状態が1壁性であったが, 術後良好な結果が得られた。
  • 滝川 雅之, 西村 英紀, 村山 洋二
    2002 年44 巻1 号 p. 37-45
    発行日: 2002/03/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    婦の歯科治療はとかく敬遠されがちであるが, 妊娠期には歯周病の発症および進行を防止するためにとりわけ厳密な歯周管理が必要である。本報告は, ある早期発症型歯周炎患者について, 当院における歯周治療中に妊娠となったため, さらなる歯周炎の進行と早産, 低体重児出産などのトラブルの発生を防止するために, 局所薬物配送療法を併用することで厳密な歯周管理に努めた臨床症例である。
    患者は34歳の女性であり, 全顎的に重度の歯槽骨吸収を伴う下顎左側臼歯部の疼痛および動揺を主訴として当院を受診した。歯周初期治療後に歯肉剥離掻爬手術を行っていたが, 4度目の妊娠が判明したため外科的な処置は極力控える治療方針に変更した。なお, 妊娠初期に行った細菌検査 (PCR法) では, 患者の歯周ポケットからActinobacillus actinomycetemcomitans (Aa), Porphyromonas gingivalis (Pg) およびPrevotella intermedia (Pi) が検出された。また, Pg, Campylobacter rectus, Treponema denticola およびEikenella corrodensに対する血清IgG抗体価が健常者の値の2SDを超えて上昇していた。妊娠初期からsupportive periodontal therapy (SPT) を継続していたにも関わらず, 臼歯部の歯肉出血および動揺が著明となってきたため, 0.002%グルコン酸クロルヘキシジン注水下での超音波スケラーを用いた歯肉縁下のプラークコントロールおよび2%塩酸ミノサイクリン軟膏による局所薬物配送療法を試みた。その結果Aa, PgおよびPiは検出されず, 歯肉出血も減少したことから, 細菌叢の質的な改善がはかれたものと考えられた。今後, さらに妊娠時の安全でかつ効果的な歯周治療法を確立する上で, 類似の症例を積み重ねていくことが重要であろう。
  • 辻上 弘
    2002 年44 巻1 号 p. 46-54
    発行日: 2002/03/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    オゾンは強力な酸化作用を有する気体で, その殺菌効果は様々な分野に応用されている。現在, 医科領域では, 末梢血液循環障害, 潰瘍, ウィルス感染症等の治療にオゾンが用いられている。
    本研究は, 歯周組織由来細胞ならびに歯周病原細菌に対するオゾン治療の影響について検索し, 歯周治療におけるオゾンの有用性を明らかにすることを目的とした。オゾン水処理後の歯周組織由来平面培養細胞に対する細胞傷害性はFDA-PI二重染色法を用いて評価した。浮遊細胞に対しては, オゾン水処理後6時間培養し, 付着した細胞数により評価した。歯周病原細菌および歯肉縁下プラーク細菌に対する殺菌効果はオゾン水処理後, 平板培地に塗抹し発現したコロニー数を計測することにより評価した。その結果, オゾン水による細胞傷害性は, 平面培養細胞に対しては軽微で, 浮遊細胞において著明に認められた。また, 5%ウシ胎仔血清含有ダルベッコ変法イーグル培地 (DMEM) はオゾン水による細胞傷害性を減弱した。これらのことは細胞外基質, またDMEMの含有する血清や有機物がオゾンの傷害に対し抑制的に働くことを示唆するものと考えられる。またオゾン水による殺菌効果は, 歯周病原細菌に対して著明に認められ, 食物残渣や細菌産生物質を多く含む歯肉縁下プラーク中の細菌に対しても, 濃度依存的に効果が認められた。以上のことからオゾン水の歯周治療における有用性が示唆された。
  • 石垣 竜, 高城 稔, 伊藤 公一
    2002 年44 巻1 号 p. 55-63
    発行日: 2002/03/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    アルカリフォスファターゼ (ALP) 活性を指標とした酵素組織化学とin situ hybridization法を用いて, 胎生13.0~15.0日齢 (E13.0~15.0) のラット下顎骨の発生過程における骨芽細胞の分化およびこれにともなう非コラーゲン性タンパク (NCP) すなわちosteonectin (ON), bone sialoprotein (BSP), osteocalcin (OC), decorin, biglycan, osteopontin (OPN) の遺伝子発現を検討した。E13.5に軟骨原基とALP陽性の骨芽細胞前駆細胞が神経線維の近傍に出現した。軟骨原基は, 分化の進行とともに免疫組織化学的にグリコサミノグリカンの発現を増加し, メッケル軟骨の形態を明確にした。一方, 骨芽細胞前駆細胞は, 骨芽細胞への分化に伴ってその数とALP活性を次第に増加した。E15.0になって, 骨基質周囲に密接するALP陽性の骨芽細胞は上記のNCP遺伝子を初めて発現したが, 細胞集団全体にわたって発現しているのは, ONとBSPで, OC, decorin, biglycan, OPNと順に発現する細胞の数が減少していた。特に, OPNは極めて少数の細胞に限局して発現していた。以上のことから, ラツト下顎骨初期発生過程において, ALP陽性の骨芽細胞前駆細胞は, 時問および位置的にメッケル軟骨原基と神経線維に密接して出現し, E15になると骨芽細胞分化の様々なステージにある特異な細胞集団に達していることが明らかとなった。
  • 歯科的所見と糖尿病診断, 空腹時血糖値, 治療法との関係
    田中 光, 橋本 雅範, 小澤 晃, 水野 克巳, 山中 克己, 野口 俊英
    2002 年44 巻1 号 p. 64-72
    発行日: 2002/03/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    歯周病と糖尿病の関係を把握する一助として, 歯周病患者を対象に口腔内所見と糖尿病の状態について調査した。本研究の対象となったのは, 愛知県歯科医師会が平成11年に実施した歯周病と糖尿病に関する疫学調査において, 本調査の実施に対して同意し, 糖尿病の有無に関する診断が得られた30~69歳の男女 (平均年齢54.3±9.0歳) 601名である。また対象者のうち, 糖尿病もしくは境界域と診断され, 空腹時血糖値 (FPG) の得られた136名 (平均年齢57.3±7.6歳), 同じく糖尿病の治療方法に関する情報が得られた190名 (平均年齢57.3±8.2歳) を対象として, 血糖値コントロールの状態や糖尿病の治療法と歯の状態および歯周病所見との関連性について検討した。その結果, 糖尿病群では正常群に比べ, 現在歯数が少なく歯周病所見もより悪化していた。しかしながら, 糖尿病群および境界域群において, 調査時におけるFPGと現在歯数および歯周病所見とは必ずしも関連していなかった。糖尿病の治療法別では, インシュリン注射あるいは内服薬を服用している群は, 食事指導・運動指導のみの群に比べ, 血糖値コントロール状態の良否によらずプロービングポケットデプスの平均値が小さく (p<0.01), 動揺度でも同様の傾向が認められ, 歯周組織の状態が良かった。すなわち, インシュリン注射ないし内服薬による糖尿病治療は, 歯周病による歯周組織の破壊を低減させる効果をも持つ可能性が示唆された。
  • 中村 輝夫, スルヨノ , 木戸 淳一, 永田 俊彦
    2002 年44 巻1 号 p. 73-81
    発行日: 2002/03/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    歯周病を正確かつ客観的に診断するために, 歯肉溝滲出液 (GCF) 中の生化学的な指標を見出そうという研究が長年行われている。1型プロコラーゲンC末端ペプチド (PlCP) およびオステオヵルシン (OCN) は, 骨芽細胞によって産生される骨代謝関連蛋白であり, 骨粗鬆症や副甲状腺機能亢進症のような代謝性骨疾患において有用な臨床指標として用いられている。本研究では, GCF中の骨代謝関連指標を探索するために, PlCPとOCNがGCF中に存在するかどうかを酵素抗体法キットを用いて検証するとともに, P1CP量およびOCN量を定量し, それらの値と臨床パラメーターである歯肉炎指数 (GI), プロービング値 (PD), プロービング時の出血 (BOP) の有無との関連をそれぞれ調べた。GCF試料はペーパーストリップスを用いて, 70名の歯周炎患者から歯周ポケット70部位 (PD>4mm), および30名の健常者から健常歯肉溝30部位PD<3mm) を選んで採取された。GCF中のPlCP量はポケット部位で平均1.04ng/site (0.91ng/μl), 健常部位で0.17ng/site (0.38ng/μl) であり, ポケット部位で6.1倍のP1CP量が探知された。OCN量はポケット部位で平均56.3pg/site (47.6pg/μl), 健常部位で38.8pg/site (123.9pg/μl) であり, ポケット部位で1.5倍のOCN量が探知された。p1CP量およびOCN量は, いずれもGIおよびPDと正の相関関係を示した。とくに, PlCPは両方の指標と強く相関していた。さらに, PlCP量はBOPの認められる部位で高く (5.5倍値), 歯槽骨代謝における疾患活動性を反映している可能性が示唆された。以上の結果は, GCF中にはP1CPおよびOCNが存在し, これらの分子は歯周炎の骨代謝関連指標になりうる可能性があることを示すものであり, とくにPlCPは歯周炎における骨代謝回転を反映する指標として有力であることが示唆された。
  • 松田 哲, 遠藤 学, 元村 洋一, 大音 孝一, 荒木 久生
    2002 年44 巻1 号 p. 82-87
    発行日: 2002/03/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    近年, レーザー治療が歯科領域でも広く用いられるようになり, 口腔粘膜のメラニン色素沈着の除去もその適応となってきた。そこで今回, 歯科用レーザーによるメラニン色素沈着の除去効果を評価する目的でEr: YAGレーザー法 (以下Er-L法) と, 従来からのPhenol-Alcohol法 (以下PA法) の2方法を同一口腔内で同時に施術し, 双方のメラニン色素の沈着除去効果を経時的に比較検討した。
    被験者は, 本研究の目的を十分理解し, 研究に同意が得られた, 年齢階級26~33歳, (平均年齢28±2.5歳) の男性5名である。被験部位は, 上顎前歯部とし, 右側にEr-L法, 左側にPA法を施術した。
    Er-L法の装置にはEr: YAGレーザー・アーウィン (モリタ社, 東京) を使用した。術式はメーカーの指示Er: YAGレーザーによるメラ. ニン色素の除去 83に従った。PA法は, 通法に従い90% Phenolを小綿球で塗布して30秒放置後, 99% Alcoholで30秒間中和し十分水洗した。臨床写真をパーソナルコンピュータ上で256譜調の白黒のデジタルデーターに変換した。メラニン色素除去効果は, 黒化度を指標に, 術前, 術後2週, 術後24週に評価した。
    結果, Er-L法は, 歯肉のメラニン色素沈着の改善効果が認められるもののPA法と比較して, その効果が著明ではなかった。したがって, メラニン色素沈着除去におけるEr-L法の応用についてはその術式について, 今後検討が必要と思われる。
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