2002 年 13 巻 1 号 p. 55-60
破裂性腹部大動脈瘤手術後にはさまざまな合併症が起こり,治療成績が不良である原因となっている.その中でも下大静脈血栓症は稀ではあるが肺動脈塞栓症を来し致命的となる可能性があるため早期の診断,治療が重要な疾患である.症例は70歳男性,腹部大動脈瘤切迫破裂の疑いで紹介された.呼吸機能低下症例であったため,ステントグラフト内挿術の方針とした.待機中に突然の腹痛とともに血圧が低下し腹部大動脈瘤破裂の診断で緊急手術を行い,人工血管による置換を行った.術後8日目に行った腹部CTで下大静脈の血栓閉塞を認め,Greenfield IVC filterを留置し血栓溶解療法を開始した.下肢の浮腫は術後10日目に出現したが治療に伴い消失した.経過中肺動脈塞栓症を疑わせる症状はなく,術後55日目に退院した.破裂性腹部大動脈瘤術後には動脈系の合併症のみならず静脈系の合併症を考慮に入れておくことが重要であると思われた.