抄録
標高が低い気象官署の年平均気温とそこの緯度との間には、明瞭な直線関係が認められる。しかしながら、標高が高い気象官署の年平均気温とそこの緯度は、この直線関係から外れる。これらの標高が高い気象官署について、冬季の気候変動を検討した既報(Suzuki, 2011)では、必ずしもすべての地点で年最低気温が上昇傾向を示したり、降積雪深が減少傾向にあるわけではないことがわかった。また、諏訪湖では御神渡りが現れない「明けの海」が2023 年冬までの5 季にわたり続いた。さらに、「近頃の冬は寒い日が少なくなった」との声をよく聞く。一方で、信州大学鈴木研究室による高標高の13 地点での気象観測結果から、2003 年から2017 年までの15 年間では、一部の観測地点では年平均気温の低下傾向が確認されるが、年平均気温の上昇傾向は認められないと報告されている。さらに、中部
山岳地域のアメダス観測地点のうち、1000 m を超える標高での8 地点でも、2003 年から2017 年の間では年平均気温の変動傾向は統計的に有意ではないと報告されている(鈴木・佐々木,2019)。前述の既報から10 年以上が経過していること、さらに、諏訪湖の「明けの海」が続いていることから、中部山岳地域の冬は暖かくなっているのか否かを検討する。