順天堂医学
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原著
Phytohemagglutinin (PHA) 刺激ヒト未梢血リンパ球のRNA合成とそれにおよぼすステロイドホルモンの影響
若林 芳久
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1975 年 21 巻 2 号 p. 173-181

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抄録
ヒトのリンパ球にphytohemagglutinin (PHA) に代表される各種のmitogenを加えて培養するとリンパ球はいわゆる芽球様化現象を起こすというリンパ球の多様性が明らかにされて以来, この現象は広く血液学あるいは免疫学の分野に導入されるようになった. この芽球様化現象の観察には, 従来, 主として形態学的観察が行なわれていたが, この方法では報告者間で芽球様化細胞に対する見解が分れ, 客観性を欠き, かつ簡便性, 定量性に欠けるなど, 欠点が多かった. リンパ球の芽球様化にともなう核酸合成, とりわけ, RNA合成を観察することは以上のような欠点を補えるものとして, 近年広く利用されるようになった. さて, 近年臨床血液学, 臨床免疫学の分野で, いわゆる免疫抑制療法が盛んに導入されて来ていることは広く知られているところである. かかる治療法に際して, そのtargetは免疫担当細胞であるが, ステロイドホルモンに代表される免疫抑制剤がリンパ球のcell kineticsに対し, どのように作用するかを検討することは, 本治療を行なう上に有意義と考えられた. 本実験においてはPHAで刺激されたヒトのリンパ球の芽球様化現象に対するステロイドホルモンの影響について検討した. 実験方法は正常ヒト末梢血リンパ球1.0×106個に対し, PHA-P100μgを添加し, RNA合成の指標として3H-Uridine 1μCiを加え, CO2 incubator中で24時間の静置培養を行いdisc法により細胞中の核酸を抽出しliquid scintillation counterで測定し核酸中に含まれた3Hの放射活性をもってRNA合成の指標とした. ステロイドホルモンはhydrocortison, Predonin, paramethasoneを用い, それぞれ, 各種の濃度で添加し, RNA合成に対する影響を観察した. 実験結果は, まずPHA刺激によるリンパ球のRNA合成は培養2時間目ですでに強く促進され, 24時間後に最も強く促進されることが明らかであった. そこで, 24時間培養におけるRNA合成の促進の度合いをPHA無添加のコントロール群のRNA合成を100%とする% increaseで検討するとPHA添加群では, 380±70%と強く促進された. つぎに, PHA刺激24時間培養ののちhydrocortisone, predonin, paramethasoneをそれぞれ添加して2時間のincubationにより, RNA合成に対する影響を% inhibitionで観察すると, いずれも極めて強いRNA合成抑制作用を示し, かつ加えたステロイドホルモンの量との間には明らかなdose dependencyがみられた. しかしながら, PHA非添加群に対しては, ステロイドホルモンのRNA合成抑制作用は, ほとんど認められなかった. これらの作用は, ステロイドホルモンがリンパ球の芽球様化にともなう細胞のRNA合成経路に介入して, そのmessenger RNAのtranscriptionのレベルで, あるいは, RNA-polymerase活性のレベルで阻害的に作用しているものと考えられた.
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© 1975 順天堂医学会
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