PLANT MORPHOLOGY
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学会賞受賞者ミニレビュー
プロトプラストを用いた花粉発生の分子形態学
田中 一朗
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2011 年 23 巻 1 号 p. 53-59

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抄録

被子植物の花粉発生は, 栄養成長から生殖成長への転換によって形成された花芽の葯内で始まり, 受粉後2個の精細胞が胚のう中の卵細胞ならびに2個の極核をもつ中央細胞と重複受精することによって終わる. この間, 花粉母細胞の減数分裂による半数性(n)細胞(小胞子)の形成, 小胞子の不等(細胞)分裂による雄原細胞と栄養細胞の分化, 花粉管の伸長と一連の劇的な細胞学的変化がみられる. ところが, 花粉母細胞は厚いカロースから成る細胞壁を, そして小胞子や花粉は不溶性のスポロポレニンから成る固い外壁をもつため,通常の細胞学的手法では詳細な内部構造を観察することは困難であった. 従って, 内部構造に関する研究は電子顕微鏡法を中心として切片を試料にするのが一般的であった. しかしながら, 切片試料の作製においても, 花粉発生過程にある細胞は他の細胞に比べて難しく, また切片像からの三次元構築もまだ容易ではなかった. そこで, 蛍光抗体法などの適用を可能にするために, 体細胞の場合と同様に, プロトプラストの単離を試みた. その結果, テッポウユリにおいては, 特有の外壁をもつ花粉からのプロトプラスト(花粉プロトプラスト)を初めとして, 花粉発生過程の多くの時期にある細胞からプロトプラストが得られるようになった. ほぼ同時進行の生化学的研究で見出した特異的タンパク質を抗原に, 特異的抗体を作製し, 単離したプロトプラストに蛍光抗体法を適用したところ, 従来予想されていた現象や機構のいくつかを初めて分子の動態として可視化することができた.

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© 2011 日本植物形態学会
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