PLANT MORPHOLOGY
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23 巻, 1 号
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特集 細胞質遺伝の分子機構  ~101年目の挑戦~
  • 西村 芳樹
    2011 年23 巻1 号 p. 1-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
    細胞質遺伝の発見から101年目にあたる2010年,日本植物学会においてJournal of Plant Research, 日本植物形態学会共催シンポジウム「細胞質遺伝の分子機構 ~101年目の挑戦~」と題した会が開催された.本特集では,それらのシンポジストを中心に寄稿して頂き,真核生物の細胞質遺伝の分子機構研究の歴史,そして最前線を俯瞰する.
  • 森山 陽介, 河野 重行
    2011 年23 巻1 号 p. 3-9
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
    動物や植物,原生生物を含む多くの真核生物において有性生殖の際にミトコンドリアの母性遺伝(片親遺伝)現象が普遍的にみられる.これは生殖細胞が同型であるか異型であるかを問わない.母性遺伝について最も受け入れられている仮説は,受精前あるいは受精後にオルガネラDNAが選択的に分解されるというものであった(Kuroiwa et al. 1982, Kuroiwa 1985).我々が真正粘菌を用い,片親由来のミトコンドリアDNA(mtDNA)が接合子の形成後に選択的に分解されることを明らかにしたことは,この仮説の直接的な証明となった.また,粘菌の性(接合型)は二極に収斂しておらず複数存在することから,性依存的にmtDNAが選択的に分解される機構について多くの手がかりが得られる.本総説では真正粘菌を用いることで明らかになったミトコンドリアの母性遺伝の機構について紹介したい.
  • 西村 芳樹
    2011 年23 巻1 号 p. 11-16
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
    ミトコンドリア(mt)や葉緑体(cp)の遺伝子は多くの生物において母親のみから遺伝する(母性遺伝).これまで母性遺伝は,父母の配偶子(精子・卵子)の大きさが異なり,mt/cpDNA量に差があることが原因と考えられてきた.これに対し,雌雄同形の配偶子で生殖をおこなう単細胞緑藻クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)では,接合後60分以内に雄の葉緑体(cp)DNAが積極的に分解されることで母性遺伝が引き起こされる.本レビューでは,この雄葉緑体DNAの急激かつ選択的な分解を明らかにしてきた生化学,細胞学,顕微分子生物学的研究の数々について俯瞰し,さらに母性遺伝の分子機構に迫りつつある遺伝学的な挑戦について述べる.
  • Soichi Nakamura, Hiroaki Aoyama
    2011 年23 巻1 号 p. 17-24
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
    Chloroplast and mitochondrial DNA (mtDNA) is inherited exclusively from the female parent in the plant and animal kingdoms. In isogamous green algae of the genus Chlamydomonas, however, chloroplast DNA (cpDNA) is inherited maternally while mtDNA is inherited paternally. To study the paternal inheritance of mtDNA in Chlamydomonas, markers were constructed to distinguish mtDNA origins, diploid cells were constructed, and genetic, molecular biological and microscopic analyses of mt+ and mt- mtDNA in zygotes were conducted. Here, the literature on mitochondrial inheritance in Chlamydomonas is reviewed.
  • 永田 典子
    2011 年23 巻1 号 p. 25-33
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
    細胞質遺伝の最初の報告は,オシロイバナにおける母性遺伝と,ゼラニウムにおける両性遺伝の同時掲載であった.母性遺伝の成立には,花粉の雄原/精細胞から物理的にオルガネラが排除される「物理的排除」に加えて,オルガネラDNAが選択的に分解される「選択的消化」のシステムが特に重要である.色素体とミトコンドリアが,母性遺伝するか両性/父性遺伝するかの運命の分岐点は花粉第一分裂直後であり,雄原細胞内のオルガネラ内のDNAは分解されるか増幅するかのどちらかに二極化する.本稿では,被子植物にみられる細胞質遺伝の複雑さと多様性を念頭において解説する.
  • 設楽 浩志, 米川 博通
    2011 年23 巻1 号 p. 35-40
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
    哺乳動物には,2種類のゲノム,核DNAとミトコンドリアDNA(mtDNA)が存在している.mtDNAの遺伝様式は,母性遺伝と急調分離に代表されるように,核DNAとは大きく異なる.
     mtDNAは古くから母性遺伝をすることが信じられてきた.なぜなら,哺乳動物では卵に存在するmtDNAコピー数が精子よりも103-4倍多く,極微量の精子由来mtDNAが次世代へと伝達されることが考えにくかったためである.しかし,当時の技術ではこの極微量の“精子由来のmtDNA”が検出されず,父親由来のmtDNAが子孫へ伝達している可能性が残されていた.その後,高感度なPCR法を用いることで,マウス精子のmtDNAが前核期後期までに消失することが示され,幾つかの特殊な事例を除き,mtDNAは完全に母性遺伝することが,実験的に証明された.形態学的解析からもマウスでは受精時に卵細胞質内に侵入した精子由来ミトコンドリアが2細胞期までにほぼ消失する様子が観察されており,ユビキチン‐プロテアソーム分解系の関与が報告されている.
     一方,急調分離とはmtDNAの状態がヘテロプラズミーからホモプラズミーへ速やかに移行する遺伝現象である.mtDNAは体細胞では103-4コピー存在しており,核DNAの約1-10倍も変異を起こしやすい.このことから,ヘテロプラズミーの方がホモプラズミーより起こりやすいことが想定されるが,実際はその逆で一つの細胞に複数のmtDNA分子種が存在することは極めて稀である.このホモプラズミー維持の機構が「ボトルネック効果」であり,これまで「雌性生殖系の細胞中のmtDNA数が極端に減少する」としたモデルが広く受入れられてきた.ところが,実際にmtDNA分子数を我々が測定するとそのコピー数に極端な減少は無く,ホモプラズミーの維持はコピー数減少以外の機構によってmtDNAの分離単位の実効数が小さくなるためと考えられる.
  • 黒岩 常祥
    2011 年23 巻1 号 p. 41-51
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
     2010年母性遺伝現象の発見100周年を記念して,日本植物学会の機関紙であるJPRの依頼を受け総説の取りまとめを行った(Kuroiwa 2010a,2010b).この企画に賛同して協力して下さった執筆者の皆さんに感謝したい.またJPRの総説を読んだ研究者から論文を頂いて分かったが,このような100周年を記念しての出版はドイツでも行われた.彼らは母性遺伝にかかわった歴史的研究者を中心に書いたようだ.
     100周年記念号では形態学的,細胞学的な観察の重要性を基盤に母性遺伝現象について書いた.本稿でその日本語訳をここで書くというのも一つであるが,同じことの繰り返しとなり意味がない.そこで,ここでは論文としては現れてこないが,母性遺伝現象のしくみ発見の背景にある人間模様について述べたい.この場合,発見の時より論文発表が大分遅くなることがしばしば起きた.この点を考慮して読んで頂ければ幸いである.研究内容の詳細に関しては特集号をお読み頂きたい.
学会賞受賞者ミニレビュー
  • 田中 一朗
    2011 年23 巻1 号 p. 53-59
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
    被子植物の花粉発生は, 栄養成長から生殖成長への転換によって形成された花芽の葯内で始まり, 受粉後2個の精細胞が胚のう中の卵細胞ならびに2個の極核をもつ中央細胞と重複受精することによって終わる. この間, 花粉母細胞の減数分裂による半数性(n)細胞(小胞子)の形成, 小胞子の不等(細胞)分裂による雄原細胞と栄養細胞の分化, 花粉管の伸長と一連の劇的な細胞学的変化がみられる. ところが, 花粉母細胞は厚いカロースから成る細胞壁を, そして小胞子や花粉は不溶性のスポロポレニンから成る固い外壁をもつため,通常の細胞学的手法では詳細な内部構造を観察することは困難であった. 従って, 内部構造に関する研究は電子顕微鏡法を中心として切片を試料にするのが一般的であった. しかしながら, 切片試料の作製においても, 花粉発生過程にある細胞は他の細胞に比べて難しく, また切片像からの三次元構築もまだ容易ではなかった. そこで, 蛍光抗体法などの適用を可能にするために, 体細胞の場合と同様に, プロトプラストの単離を試みた. その結果, テッポウユリにおいては, 特有の外壁をもつ花粉からのプロトプラスト(花粉プロトプラスト)を初めとして, 花粉発生過程の多くの時期にある細胞からプロトプラストが得られるようになった. ほぼ同時進行の生化学的研究で見出した特異的タンパク質を抗原に, 特異的抗体を作製し, 単離したプロトプラストに蛍光抗体法を適用したところ, 従来予想されていた現象や機構のいくつかを初めて分子の動態として可視化することができた.
  • 宮城島 進也
    2011 年23 巻1 号 p. 61-70
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
    光合成を担う細胞内小器官である葉緑体は,今から十億年以上前に,シアノバクテリアが植物細胞の祖先に細胞内共生することによって誕生した.バクテリアと同様,葉緑体は自身の分裂によってのみ増殖し,その増殖は宿主植物細胞によって制御されている.葉緑体の分裂はその分裂面に形成される分裂装置によって分裂し,分裂装置が,シアノバクテリアの分裂機構と,宿主真核細胞が新たに加えた因子による,融合装置であることが分かってきた.本稿では葉緑体の分裂機構と,最近の我々の研究から明らかとなった分裂の制御機構について紹介する.
  • Yoshihisa Ueno, Patricia Springer
    2011 年23 巻1 号 p. 71-80
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
    The ASYMMETRIC LEAVES2 (AS2) gene is involved in leaf development along adaxial-abaxial, medial-lateral and proximal-distal axes in Arabidopsis. The AS2 gene belongs to the AS2/LATERAL ORGAN BOUNDARIES (LOB) family. There are 42 members of the AS2/LOB family in the Arabidopsis genome. Many recent studies revealed that AS2/LOB family genes are involved in various physiological processes including the regulation of development and metabolism in plants. The approximately 100 amino acid AS2/LOB-domain, which defines this family, is highly conserved. Conserved regions include the C-motif, an internal region containing an invariant glycine residue, and a leucine-zipper-like motif, in the case of class I proteins. The conserved AS2/LOB-domain of AS2 cannot be functionally replaced by those of other members of the family. AS2 acts in a same pathway as that of AS1, which is an ortholog of ROUGH SHEATH2 of maize and PHANTASTICA of snapdragon. Recent molecular genetic studies for the role of AS2 provided important information. The regulation of gene expression and leaf development by AS2 is genetically linked with the regulations based on chromatin level, post-transcriptional level, protein metabolism and cell proliferation. These novel insights contribute to a better understanding of the role of AS2/LOB family genes for plant morphogenesis and physiological responses.
  • 栗原 大輔
    2011 年23 巻1 号 p. 81-89
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
    細胞周期の中でも細胞分裂期はダイナミックな染色体動態を伴う過程であり,その動態の美しさは古くから研究者たちを魅了している.安定した遺伝情報の継承のために必須な染色体動態は,様々な分子が関わる精巧なメカニズムによって制御されている.染色体分配に失敗すると直接異数染色体につながり,遺伝情報のバランスに狂いが生じ,細胞死やガン化を引き起こすため,動物の研究では医薬の分野も含めて精力的に研究が行われているが,植物ではほとんど明らかになっていない.著者らはこれまで,シロイヌナズナ,タバコを用いて染色体動態を制御する分裂期キナーゼ,オーロラキナーゼの同定および機能解析を進めることによって,植物における染色体動態制御機構を明らかにすることを進めてきた.本稿では,近年次第に明らかになりつつある染色体動態の制御機構とともに,植物における染色体動態研究の現状と展望を解説する.
日本植物形態学会第22回大会(中部)ポスター発表要旨
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