2012 年 24 巻 1 号 p. 73-80
カワゴケソウ科は急流中の岩場に生育する水生被子植物である.特異な形態進化を起こして極限環境へ適応しており,根から生じるシュートもそのひとつである.カワゴケソウ科の基部系統群のトリスティカ亜科とウェッデリナ亜科では,他の被子植物と同様,茎頂分裂組織の働きにより葉が作られる.しかし,派生系統群のカワゴケソウ亜科には明瞭な茎頂分裂組織が存在せず,若い葉原基の基部から新たな葉が生じる.遺伝子発現パターンの比較から,カワゴケソウ亜科の「葉」は,茎頂分裂組織が葉へ分化した器官であることが明らかとなった.本総説では,これらの研究から明らかになったカワゴケソウ科の特異なシュート形態形成の進化プロセスについて述べたい.