2012 年 24 巻 1 号 p. 81-88
植物は光合成によってCO2を固定することで温暖化を防ぐとともに,O2を放出し,糖の合成を通じて食料,燃料などを生産し,地球上のほとんど全ての生物の生存を支えている.この機能の中心は分裂・増殖する葉緑体(色素体)である.葉緑体は約20億年前に宿主細胞に共生したシアノバクテリアの子孫と考えられており,分裂によって増殖するが,そのしくみは長らく謎であった.1986年に著者らは葉緑体の分裂面に,分裂装置としてのリング構造を発見し,色素体分裂リング(PDリング)と名付けた.PDリングは直径7 nmの繊維の束で出来ており,繊維同士の滑動機構によってリングが収縮し,葉緑体を分裂させることが示唆されたが,繊維の構成物は明らかでなかった.今回,我々は真核生物の「基」となる原始紅藻Cyanidioschyzon merolae(シゾン)を用いて,PDリングを単離し,ポストゲノム情報や遺伝子破壊技術を基盤に構成成分を解析したところ,PDリングの繊維は糖で出来ており,PDリング内の糖合成タンパク質plastid-dividing ring 1(PDR1)を使って合成されることが分かった.葉緑体はポリグルカン繊維をダイナミン分子が滑動させることによって収縮し,分裂することが解明された.PDR1の局在を示す免疫電子顕微鏡写真はScience誌の表紙となった.