PLANT MORPHOLOGY
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出芽酵母の細胞壁研究の魅力 — 1,3-β-グルカン合成に関する最近の研究 —
久保 佳蓮大矢 禎一
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2018 年 30 巻 1 号 p. 59-64

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抄録

1,3-β-グルカンは,高等植物と酵母に共通に存在する多糖類であり,特に出芽酵母では細胞壁の主要な構成成分である.本稿では「究極のオルガネラ研究」ということで,出芽酵母の(1)細胞壁合成チェックポイントと(2)細胞壁をターゲットにした新しい抗真菌剤,という1,3-β-グルカン合成に関する二つの最近の研究を紹介する.まず細胞壁合成チェックポイントは出芽酵母の1,3-β-グルカン合成が停止した時に活性化する細胞周期チェックポイントであり,最近その分子機構の概要が明らかになってきた.細胞壁合成が停止したことを細胞壁のセンサーが感知すると2つのMAPキナーゼと転写因子カスケードを経てM期サイクリンClb2の転写を抑制し,細胞周期はG2期で停止する.高等植物にも細胞壁合成と細胞増殖を結びつける機構があることは興味深い.一方,1,3-β-グルカン合成は細胞増殖に必須であり古くから抗真菌剤のターゲットとされてきたが,最近ポアシン酸という新しい抗真菌剤が見つかった.ポアシン酸はイネ科の植物のリグノセルロースの加水分解産物に含まれる細胞壁の架橋剤ジフェルラ酸の誘導体である.出芽酵母を用いた研究からポアシン酸は1,3-β-グルカンに結合してその合成酵素の活性を阻害することがわかった.幅広いスペクトラムの植物病原性真菌に効くことから,植物由来の次世代農薬としての期待が高まってきている.

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© 2018 日本植物形態学会
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