2018 年 30 巻 1 号 p. 65-72
ミトコンドリアDNA(mtDNA)は特異的なタンパク質と結合して,ミトコンドリア核様体(mt核様体)を形成している.筆者らは,DAPI染色法によって,酵母 Saccharomyces cerevisiae の生活環におけるmt核様体の動態について調べた.酵母 S. cerevisiae のmt核様体は,栄養成長培養の対数期には数珠状形態をとり,定常期には小球状形態をとる.減数分裂・胞子形成培養では,減数分裂前期にmt核様体は顕著な網目を形成しながら,胞子の中に分配される.酵母の嫌気培養では定常期に大きく凝集したmt核様体が形成され,嫌気培養から好気培養への変換過程では,凝集mt核様体は伸長し小球状へと分散する動的な形態変化を示す.また,rho- 呼吸欠損株では,保持するmtDNA配列の単位の長さに依存して,mt 核様体の形態が変化した.筆者らは,酵母から単離したmt核様体を構成するタンパク質を分析した.mt核様体にはDNA 結合タンパク質Abf2pが主要な成分として結合し,mtDNAを折り畳んでいる.また,Abf2p以外にも多くのタンパク質がmt核様体を構成している.酵母種間でのAbf2pホモログの比較から,Abf2pはmt核様体タンパク質の中で保存性が低いことが分かった.